隣人を愛せよ!A


鼻歌交じりに食器洗いに勤しんでいる恋人の背中に、三成はホットカーペットの上でくつろぎながら話しかけた。

「そう言えば猿飛。貴様に話があったんだ。」
「んん?何?」

三成にプレゼントされたカーキ色のエプロンを着用した佐助は、特に振り返ることも無く返事をした。
だが。

「四月から本社に異動が決まった。それに伴って、ここを出て行くことになる。」

ーパリン!
三成から発せられた言葉に驚き、一枚皿を取り落とし、割ってしまったのだった。

「え!?嘘でしょ!?」

佐助は濡れた手を拭くことも忘れて三成のすぐ横に飛んで来た。

「嘘なものか。栄転だぞ。」
「そんな、本社ってどこにあんの!?こっからじゃ通えないの!?」
「一応都内だから、ここから通えないことも無いが……。電車で二時間近くかかるからな。それに、既に会社の近くの物件を押さえて頂いてある。」

いつも通りの無表情で話す三成とは対照的に、佐助は焦り、どんどん必死になっていく。

「もう決まってんの!?一緒に早起き頑張るからさぁ、考え直してよ!俺様嫌だ!!」

佐助は涙目になって訴える。
今更、この生活力の全く無い彼女と離れて暮らせと言うのか。彼女(の生活)を自分以外に誰が守れると言うのか。

「ふむ…。いい話だと思ったのだが、貴様はそんなにこのアパートが好きか。」
「アパートって言うか、お嬢が好き!!離れたくない!!」

感情に任せて、佐助は思い切り三成を抱き締めた。そして熱烈なキスを贈る。何度も背中をタップされたが、満足するまで離してはやらなかった。

「アンタの飯は俺が作るんだ。アンタの服だって下着だって、俺が洗濯して干す。掃除も満足に出来ないだろ?燃えるゴミの日はいつか分かる?ねぇ、スーパーで卵が安いのは何曜日?」
「猿飛……?」
「…アンタ何も出来ないくせに、何で勝手に俺から離れる算段してるんだよ!!」
「猿飛、聞けっ!!」

ーゴッ!

「あだぁ!!?」

顔面に頭突きを食らい、佐助はようやく黙った。

「貴様は何か勘違いをしているようだな。」
「勘違い?」

三成は一つ溜め息を吐いてから、鼻をさすっている男に順番に説明をしていった。

「私が四月から住む予定なのは会社所有のマンションだ。ファミリータイプだから間取りは3LDKと申し分無いし、家賃は今より高くはなるものの、二人で折半すれば二部屋借りている現状よりは安く済む。」
「えっと…お嬢、それって……?」
「もとより私は、貴様と一緒に引っ越すつもりだったんだが?」

誤解が解けたようで、佐助の表情がパァッと明るくなった。

「んもー!早く言ってよ!!」
「貴様が勝手に早とちりをしたんだろうが。
…で、一緒に行くのか?ここに残るのか?」
「一緒に行くに決まってる!!」

佐助はニッと歯を見せて笑って、もう一度三成にキスをした。今度は頬に、ちゅっと可愛い音を立てて。

「そうと決まれば、新しいバイト先も探さないとね。新居の最寄り駅はどこ?」
「それなんだが、今年はかなりの昇給が見込めそうでな。贅沢をし過ぎなければ私の稼ぎだけでも暮らせるだろうから、貴様は無理して働かなくても大丈夫だぞ。」
「本社に栄転だもんねぇ。その若さで大出世じゃないかお前さん。
……って、ちょっと!いくら何でもそれは無いでしょ!!お嬢男前過ぎ!!」

三成の女性とは思えぬ頼もし過ぎるセリフに、思わず佐助はノリツッコミをしてしまった。

「誰が望んでヒモ男になるって言うの!」
「安心しろ、貴様の場合はただのヒモでは無い、れっきとした『主夫』だ。」
「似たよーなもんだよ…。」

がっくりと肩を落とす佐助を覗き込んで、三成が言う。

「それにな。貴様のような男は、誰かに飼われているのがお似合いだ。素直に私に養われていればいい。」

彼女があんまり綺麗に笑うものだから、佐助は言いたいことの全てを思わず飲み込んでしまった。

「ああ、もうっ!!」

エプロンを脱ぎ捨て、オレンジ色の髪の毛を振り乱し頭を乱暴にがしがしと掻いてから、佐助は三成に向き直った。そして右手を差し出して、半ば叫ぶように言った。

「石田のお嬢!俺様をお婿さんにして下さいっ!!」



「……それはプロポーズのつもりか?だとしたら、最悪だな。」

そう言って三成は、頬を薔薇色に染めながら佐助の手を取った。




おしまい☆
(お幸せに!)




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