だぶる!A
夕飯のメニューは、三成とギン千代が話し合った結果カレーになった。作るのが簡単だから、というのが理由ではなく、『二人暮らしだとあまりカレーを作らないから、この機会に食べたい』とのこと。確かにカレーでもハヤシライスでもシチューでも、一鍋作ったら二人でそれを消費するのは一日では難しい。さすがに三食同じものも嫌だしな。
せっかくだからおいしいカレーを作ろう、とギン千代と三成はキッチンで張り切っている。玉ねぎをあめ色になるまで炒めて、煮崩れないようにと人参とジャガイモは面取りまでしていた。俺達男二人はと言えば、別に積もる話も無いのでリビングからそれぞれの彼女と妻の様子を見ていた。
「なんだか、嫁さんを二人もらったみたいで気分がいいな。」
「……嫁が二人いちゃいけねーだろ。」
宗茂のふざけた発言に俺はそう返事をしたが、ちょっと同意しそうになった自分を狩ってやりたいと思った。ギン千代を第二夫人に、とは思わないのだが、彼女が三成と二人で並んでるのは……絵的にすごくイイのだ。目の保養になると言うか癒されると言うか、とにかくイイ。
「ふっ、清正。それは『萌え』という感情だ。」
「心を読むな宗茂!!」
「別に恥じることは無いさ。俺も百合の世界には興味がある。あの二人なら美しい花を咲かせるに決まっているからな。」
「お、お前…っ!自分の嫁さんだろうが!!」
「「百合?」」
キッチンから怪訝な視線を二つ向けられたので、俺達は慌てて話題を変えた。
「そう言えば、このマンションって賃貸じゃなくて分譲なんだろ?すごいよな、こんな高級そうなマンションを買えるなんて。」
「ああ、それなら…。」
俺達の話が聞こえていたのか、台所からギン千代も会話に混ざって来た。
「この部屋は親の援助があってどうにか購入できたものだ。だから褒めてくれるな、恥ずかしい。」
「ははっ、本当に恥ずかしい話だ。ギン千代の実家は金持ちでな。出世払いで徐々に返すつもりなんだが、これまでにもたくさん助けられているんだ。」
「へぇ…。」
俺はつい間抜けな声を出してしまった。立花夫妻はそんなことを言うものの、俺の目からは随分と自立しているように見える。二人とも、立派だよな…。
「清正も、大学卒業したら頑張れよ。三成が楽できるようしっかり働け。」
って宗茂手前ェ。人が内心褒めてる側からそれか。
「お前の嫁さんだって働いてんじゃねーかよ。」
「それは彼女の意志だ。」
俺と宗茂が言い合っていると、キッチンからカレーのいい匂いがして来て、リビングもその食欲をそそる香りに包まれた。間も無く三成とギン千代の特製カレーにありつけるようだ。
「つまらん話はそのくらいにしておけ。」
「もうすぐできるぞ。」
気付けば俺の彼女と宗茂の嫁はエプロンを装着していて、シーチキンとコーンの缶詰めを使ってサラダを作っていた。その姿が俺達に更なる眼福をくれたのは言うまでも無い。よし三成、これからは家でもエプロン使おう。
二人が作ったカレーは絶品だった。圧力鍋で煮込んだ牛スネ肉はすごく柔らかくて、スパイスが効いているのにルゥはまろやかで。俺と宗茂は二回もお代わりをして鍋を空っぽにしてしまった。うまいと褒めると、三成もギン千代も恥ずかしそうに笑った。
四人でいる時間は楽しく、俺達が立花家を後にしたのは夜遅くになってからだった。
その日を境に三成とギン千代はお互いの家を行き来することが多くなった。その度に男は爪弾きにされてしまうのだが、俺も宗茂も文句を言う気にはなれなかった。
「惚れた弱みってヤツかな…。」
「ああ…。」
意図せずして、俺と宗茂の親交も深まったのであった。
おしまい!
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