だぶる!


「あれ?宗茂?」

土曜の午後、三成と一緒に駅前のちょっと大きなスーパーに買い物に行ったところ、思わぬ人物に出会った。

「清正じゃないか。奇遇だな。隣りの女性は、噂の彼女か?」

品定めをするように三成を眺めてから、胡散臭い笑みを浮かべた目の前の男。こいつの名前は立花宗茂と言い、前世からの知り合いだ。一応昔の記憶もあるらしいのだが、俺達のようにはっきりと覚えているわけでは無く、ところどころをぼんやりと、程度の断片的な記憶しか無いらしい(…だっつーのに性格は相変わらずだ)。
ちなみに奴の嫁のギン千代は三成のダチで、過去でも宗茂と夫婦だった。彼女には前世の記憶は無いらしいのだが、それでもまた結ばれたのは一言『すごい』としか言いようが無い。主にすごいと思うのは宗茂の執念だが。

「お前が宗茂か。こちらこそ、ギン千代からお前の話は聞き及んでいるぞ。」

三成は宗茂の不躾な視線に臆することなく、むしろ負けじといった様子で腕組みまでしてそう言った。その不遜な態度のお陰で三成がかぶっている白いニット帽が何だか例のモフモフのように見えた。懐かしい。

「ところで、今日は嫁さんは一緒じゃないのか?」
「ああ、ギン千代なら駐車場のところで野良猫の親子を見付けてしまって…。しばらくは来ないだろう。」

聞けばギン千代は、大の猫好きらしく、ちょっと目を離した隙に野良猫を追い掛けて行方不明になり、泥やら枯葉やらにまみれた姿で戻って来ることがしょっちゅうなんだそうだ。それを聞いて三成が「可愛いな」と笑うと、宗茂は「そうだろう?」とドヤ顔をして見せた。その顔やめろ腹が立つ。

「ギン千代!」

三人で他愛無い会話を交わしていると、三成が出入り口の方に向かって手を振り出した。立花嫁、ようやくの登場だ。彼女の頭には蜘蛛の巣が付いていて、それを宗茂が恭しい手付きで取ってやっていた。

「三成じゃないか。こんなところで会うとはな。」
「それはこっちのセリフだ。どうしてこのスーパーに?お前の家はもっと遠くじゃなかったか?」

三成の問い掛けに答えたのは宗茂だった。

「つい先週、この近くに引っ越して来たんだ。駅の北口から少し歩いたところにマンションができただろう?そこにな。」
「あの高層マンションか!」

そう言えば、電車からでっかいマンションを建てているのが見えたな。

(あんな高級そうなところに住んでるだと…?)

俺は見せ付けられた格差に少々ショックを受けたのだが、三成はそんなこと気にも留めずにギン千代と喋っていた。

「すまない三成、言うのをすっかり忘れていたな。」
「いや、別に構わん。近所…とまでは言えんが、近くに友人がいるのは嬉しく思う。」

三成がちょっとはにかんでそう言うと、立花夫妻から意外な提案をされた。

「二人とも、良かったら今からうちに来ないか?宗茂も、別に構わないだろう?」
「ああ、それはいいな。新居のお披露目がてら、夕食でもご馳走しよう。」

急遽宗茂達の部屋に招待されることになった俺達は、食材を購入してからすぐに件の新築・高級・高層マンションへと向かうことになった。




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