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かまって。
ぱちん、ぱちん。
爪を切る軽い音が部屋に響く。その乾いた音を出しているのは恋人の三成であった。ここは彼女のアパートなのだし、何をするかなど家主の彼女次第で構わないのだが。そして奴は手の爪を切り終わり、足の爪に取り掛かろうと体勢を変える。
「いやいやいやいや、ちょっと待て。」
ぱちん、ぱちん。
……俺のことなど全く無視。濃いピンク色のキャミソールと、同色のパンツ(両方ともフリル付き)だけを身に着けてどっかりと床に座り込んで爪を切る動作をやめない三成。
そう、俺が気にしているのは今の三成の格好である。ほぼ下着じゃねぇかよっ!
「ここは俺の家だ。俺がくつろぐ邪魔は誰にもさせん。よってお前も今日は空気扱いだ。」
ぱちん、ぱちん。
…く う き ?
日曜の午前中、テレビはいいとも増刊号、エアコンは気怠い音と共に冷気を吐き出している(設定温度は地球に優しい28℃)。目の前の愛しい彼女は下着同然の姿でキレイな脚と控え目な谷間を惜しげなく晒していて。……えぇと?俺こいつの彼氏だったよな?何これ。何なのこれ。
「…ふっ。」
…あ、いいとも見て笑ってるし。おのれ春日。あんま面白くねーぞ。
そうだ、どうせ俺は空気なら。
ゆっくりと三成の背後に回る。こいつが爪切りで指を切ったりしないよう気を付けながら、後ろからそーっと抱き付いた。
「清正、鬱陶しい真似をするな。」
「俺は空気なんだろ?気にすんなよ。」
ちょっと嫌そうな三成を余所に、彼女の白いうなじに唇を寄せる。相変わらずイイ匂いがする。振り払われないのは幸いか。
ぱちん、ぱちん。
「暑い、な。」
「なら離れればいいだろう。」
「嫌だ。」
俺には目もくれない三成が、テレビを見て再び小さく吹き出した。画面にはまたしてもオードリー。
「……お前、なんか春日気に入ってるよな。」
「まぁ、嫌いではないな。」
「俺は若林の方が面白いと思うんだけどな。春日のどこがいい?」
三成の細い腰に腕を回したまま問う。ピンクなベストのあいつの長所に特別興味は無いのだが。
「色が黒くてガタイがいいところ、…と言ったら?」
ぱちん、ぱちん。
…なぁ三成、今のって?こっちを振り返ってはくれねぇけど、髪の毛から覗く耳は真っ赤だぜ?
ぱちん、ぱちん。
「まだ爪、切り終わらないのか?」
「もう少しだ。」
「そうか。」
「切り終えたら形を整えたりして、磨く。その後マニキュアを塗る。」
「………。」
分かった、それくらいは終わるの待つよ。それが全部済んだら、もっとお前に触っていいかな?
…それと。いい加減こっちを向いて。
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