なさけない、けど。


この喫茶店に入ってから25分、三成がメニューとにらめっこを始めてから22分。オーダーはまだかとチラチラとこちらを窺う従業員の女性に、俺は頭を下げるばかりだった。



今日は三成と久しぶりのデート。一緒に住んでるんだから『デート』もへったくれも無いのかも知れないが、恋人同士が休日一緒に出かけるのをそう呼んでおかしいことは無いだろうと思う。
朝はゆっくり起きて、近所のファミレスでブランチ。それから最近話題の俳優が出ているアクション映画を観て、ちょっとお茶をしようと喫茶店に入った。

…そして、冒頭に戻るというわけだ。



「これにするか、それともこちらか……。」

うーんうーんと唸りながらメニュー表を見ている三成。俺はホットコーヒーを注文しようともう決めてあるから、こいつが何にするか決めかねている間は暇で仕方無い。退屈しのぎに伏せられてる長いまつげでも数えてやろうかと思ったけど、若干変態くさいんでやめた。その代わりに、店の内装に目をやる。テーブル、椅子、壁と、全体的に木目を活かしたデザインで温かみを感じる。落ち着いたオレンジ色の照明もこの雰囲気に合っていてお洒落だ。建築家を目指す者としては、こういうのを見るのも勉強になる。

しかし、これ以上待たせるのは店の人に悪いだろう。

「どれとどれで迷ってんだよ?」
「和栗のモンブランにするか、ハロウィン限定のかぼちゃのプリンのどちらにするか……。い、いや、信州産林檎のタルトも期間限定の品物か…。スタンダードだがショートケーキも捨てがたいのだよ……。」

……四つも候補あるのかよ。
俺はわざとらしく溜め息を吐いて、三時のおやつに頭を悩ませている恋人に一つ提案をした。

「二つに絞れ。一個は俺が頼んでやるから。」
「本当か!?」
「ああ。半分やるよ。」

途端、ぱぁっと表情を輝かせる三成。
くそ、可愛い。

「栗と林檎、清正はどっちが好きだ?」
「別にどっちでも。」
「それでは困るのだよ!」
「じゃあ林檎。」

言うが早いか、三成は近くにいたスタッフを呼んだ。

「かぼちゃのプリンを、ドリンクセットで一つ。飲み物はミルクティーでお願いします。あと、林檎のタルトを一つ。以上で。」
「おい、俺の飲み物がねーだろ。
すみません、林檎のタルトもドリンクセットにして、ホットコーヒー付けて下さい。」

こういうとき、こいつは普段以上に自己中心的になる。てへぺろ☆みたいな顔すんなキャラじゃない真似して誤魔化すんじゃねぇ。



注文したものがテーブルに運ばれて来ると、まず三成はプリンの写メを撮った。中身をくり抜かれたかぼちゃが食器として使用されていて、見た目にも可愛らしいスイーツだった。またジャック・オ・ランタンやコウモリを模したチョコレートが生クリームと一緒に載っているのもハロウィンらしく、女子好みのデザインだと思った。あんまり可愛いからと食べるのを少し躊躇して、ようやくと口に運んだと思ったらうまいうまいと歓喜。…まったく、こいつは見ていて飽きないな。
それを半分程度食べたところで、三成はスプーンを置いた。

「そっちのタルトはどうだ?うまいか?」

俺は三成の観察で忙しかったために、まだ一口しか食べていない。そのほぼ原型のタルトを、三成が物欲しそうな瞳で見詰める。

「ああ、うまい。」

もう一口だけ食べて、俺は林檎のタルトを皿ごと三成に寄越した。

「全然食べていないではないか。」

だが、3/4ほど残っているそれをもらうことに抵抗があるのか、三成は素直に受け取らない。別に俺はもういいのに。

「味見はしたからもういい。お前が食いたくて頼んだもんなんだから、遠慮しないで食えよ。」
「ならば、こっちのプリンを少しやろう。」

そう言って三成は、スプーンにプリンをすくって差し出して来た。
……これは、俗に言う「あーん」だ。


恥ずかしい!!これは非常に恥ずかしいぞ!しかし!こんなチャンスは滅多に無い!!


俺の中での羞恥心と欲望の戦いは、欲望の圧勝という形ですぐに決着が付いた。可愛い彼女からの「あーん」、堪能させて頂きました。他人様の目など最早どうでもいい!



「この店、ケーキもコーヒーもうまかったな。」
「そうだな、また来よう。」

恐らくは個人経営であろうこの喫茶店は、一度の来店で俺と三成のお気に入りの店となった。

「そろそろ行くか。お前の分はほぼ俺が食べてしまったからな、会計は任せろ。」
「あ、おい…っ!」

三成は止める間も無くレジへ伝票を持って行ってしまった。「俺が出すからいい」と言えない甲斐性無しは、先に店外へと出ているしかない。ああ、情けないったらねぇ。

学生の身空である俺は、いくらアルバイトをしているとは言え、やはり何かにつけて三成の財布をあてにしてしまうことが多いわけで。「出世払いでいいぞ」とあいつは言ってくれるけど、早く一人前になって、三成を養ってやりたいと思った。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、三成は突然腕を絡めて来た。驚く俺に、にんまりと笑って見せる。

「さぁ、帰るぞ。自宅までのエスコートを頼む。」



色んな意味で、俺はこいつに一生敵わないような気がした。






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