あつい!


最近、どこへ言っても目にする・耳にする言葉、「節電」。電気の使用を控えつつ、いかにこの猛暑を乗り切るか、というのが今年の日本全体の夏のテーマのようだ。

みんなで努力しようってことなら文句は無いし、何より環境にも優しい。多少の不便は喜んでガマンしよう。
……だが。

「暑い……っ!」

今年の暑さも規格外で、元々暑がりである俺は、毎日が気温との戦いであった。



大学が夏休みに入り、バイトが無い日は暇を持て余し気味だった。実家に居てもまぁすることも無いしで、例のごとく三成んちに居たりする。一番暑い時間帯…午後二時台くらいはちょうど電力消費のピークだから、絶対に冷房は使うなとあいつに言われている。というか、節電のためにエアコンの使用自体を控えろとの命だ。家主様に言われちゃあ仕方が無いので、団扇で凌いではいるが…若干視界が揺れている。適当に水分補給をしてから、どっかのカフェにでも涼みに行くか。

…と、思ったところで携帯が鳴った。友人の正則からの着信だった。

「もしもし?」
「よう清正!今日も暑っちぃなあ!空見てみろよ、超すげぇ入道雲が出てんだぜー!俺写メ撮っちった!」
「はいはい、良かったな。で、何か用か?」

良くも悪くも子どものような正則を、適当にあしらい用件を聞き出す。悪いが、長電話に付き合ったとしても涼が取れるような相手では無い。

「そうそう、怪談がイイんだってよ!」
「…何にだよ馬鹿。お前の会話は時々主語が足りねぇ。」
「暑さにだよ!怖い話って、本当に体感温度を下げる効果があるんだと!」
「へえ…。」

昔から、夏になったら心霊番組とか増えるもんな。一応理に適ってる訳か。

「そんでこないだ、怪談のCD買ったんだよ。良かったら清正も聞かねぇかと思って。結構怖かったぜ〜?冷やっとした!」
「まぁ半信半疑だが…。聞いてみるか。」

三成と一緒に怪談大会も悪くなさそうだし。

それから俺は、避暑ついでにファミレスで正則に会い、例のCDを借り受けた。ちなみに、稲川淳二のCDでは無かった。



「怪談か…。」

三成が帰宅して、夕食を済ませてから俺はいそいそと怪談大会の準備をはじめた。仏壇なんかにありそうな「いかにも」な蝋燭に火を灯す俺を、三成が険しい表情で見ている。

「本当に涼しくなるらしいぜ。暇潰し程度に試してみようかと思ってな。」
「暑さを楽しむ精神は買ってやるが俺は間に合っている。」

てっきり乗って来るかと思ってたんだが、三成はあまり乗り気では無さそうだ。でも、チューブトップにショートパンツと相変わらず水着みたいな部屋着だし、麦茶に氷浮かべて飲んでるし扇使ってるし。
……さては。

「怖いの苦手か?」

俺はにやりと笑って三成を見た。自分でも人の悪そうな笑みを浮かべているのが分かる。

「な…っ!そんな訳無いだろう!!」
「ならいいじゃねぇか。暑さが紛れるかも知れないぜ?」
「ふん、怪談ごときいくらでも聞いてやる。」

まったく、分かりやすくて扱いやすい女だ。



『ーそのとき、血塗れの少女が私の服を掴んで「うわぁああ!!」

何話か入ったCDを再生して、その一話目。三成は早々に震え上がり、悲鳴を上げながら俺に抱き付いて来た。
……可愛いぞコラ。

「やめるか?」

三成のさらさらした髪を撫でながら、俺はなるべく優しい声を出して言った。だが三成は首を振る。

「最後まで聞く…。」

そういやこいつは、昔っからとんでもない負けず嫌いだったな…。



全部で一時間ほどのそれを聞き終わる頃には、三成は鳥肌を立てていた。ばっちり涼しくなったようだが、効果があり過ぎたようにも思える。俺はと言えば、怪談の内容よりぴったり引っ付いていた三成の方に意識をやっていたから、体感温度が下がったかどうかは不明だ。

「清正。」
「何だよ?」
「今日は特別に、俺のベッドで寝ることを許可してやる。」

ベッドが一つしか無いこの部屋では、夏の間は俺は床で寝る決まりがある。
…どうやら三成は、先ほどのCDが相当怖かったらしい。それを口に出すと機嫌を損ねてしまうので、「じゃ、お言葉に甘えて」と素直に言っておいた。俺にとっても願ってもない申し出だしな。



一人用のベッドで一緒に寝ると、少々手狭だ。だが、三成をすぐそばに感じることができるから俺は好きだった。あいつだって、冬場は文句を言わなかったから満更でもなかったのだろうと思う。

「なぁ三成。ちょっと暑いな。」

俺のシャツを掴む華奢な手が愛しい。

「クーラー、付けていいか?」
「……勝手に付けろ。」




設定温度は28℃、寄り添う体温はやや低めの35℃とちょっと。

なんて快適な夜。

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