おかえし。A


 それっぽい雰囲気を作ってプレゼント、ってのは柄じゃないよな。雰囲気作りすらできるか俺には危ういし…。俺は頭を捻りながら三成の帰りを待っていた。今日の勤務は午後一時までだから、もう少ししたら帰って来るだろう。
「ただいま。」
 お、早いな。
「お帰り。早かったな。」
 黒いブーツをぽいぽいと脱ぎ捨てる三成。ちゃんとしとかねーと形崩れんぞ?
「今日は患者が少なくてな。片付けがすぐに終わった。そういう清正は、今日も帰らなかったのだな。」
「ああ、うちに帰んなきゃできない提出物もないしな。」
 午後になって急に強くなった風にやられたのだろう、三成の乱れた髪を手櫛で直してやった。こいつの髪の毛のするするとした手触りは極上である。そしてこいつも(俺の思い込みでなければ)、俺の手の平に撫でられるのが好きだ。髪に触れていた右手で、そのまま頬を撫でてやる。
「…どうした?」
 ふにゃんと三成が笑った。可愛い。
「別に。」
 多分、俺の顔も緩んでいる。
「……着替えたいから後で、な。」
 俺に「待て」をしてから、三成は少し恥ずかしそうにして奥の部屋へと引っ込んで行った(几帳面なあいつは手洗いうがいも忘れない)。さて、もううだうだ考えないで、奴が出て来たら指輪を渡しちまうか。



 だぼっとしたパーカーとレギンスパンツに着替えて来た三成。お疲れ、と言ってホットココアを渡してやったら、「…何か欲しいものでもあるのか?」と勘ぐられてしまった。せっかくの俺の厚意に失敬な。
「俺はお前のヒモか。」
「違うのか?」
 ……確かに俺は家賃も光熱費も払ってねぇよ。悪うございましたね。
「そんなヒモ男から彼女にプレゼントだ。」
 俺はぽいと、白い包装紙に濃いピンク色のリボンが掛けられた箱を三成に軽く投げた。
「?」
「ちょっと早いけど、チョコのお返しだ。」
 言うが早いか、三成は包みを開け始める。箱を開けた瞬間、あいつが息を飲んだのが分かった。
「清正、これ……。」
「貸してみ。」
 俺は例のリングと、三成の左手を恭しく取った。そして薬指にそれをそっとはめてやる。
「受け取ってくれるよな?」
 ニッと笑って俺が尋ねれば。
「……ば、馬鹿!馬鹿清正!!こーゆーのは夜景が綺麗なレストランで、とか相場が決まっているのだよっ!」
 顔を真っ赤にして、三成は俺の胸をぽかぽか叩いた。
「悪かったな、今の俺にそんな財力はねぇんだよ。んで、もらってくれんのかよ?」
「…いらない、と言われたって困るだろう?だから、特別に受け取ってやるっ!」
 隠れるように俺の胸板に顔を埋める可愛い彼女を、俺はぎゅっと抱き締めた。
「ん、良かった。安物でごめんな。」
 三成は顔を上げないまま首を振って、小さく嬉しい、と呟いた。馬鹿だな、泣くなよ。



 「なぁ清正。先月俺がしたように、お前自身を俺にくれたりはしないのか?」
 薬指の指輪と俺を交互に眺めながら、三成がからかうような口調で言う。
「俺はもうとっくにお前のもんだと思ってたんだけどな。リボンでも掛け直して、もっかいやろうか?」
 負けじと俺も悪戯っぽく笑って言った。

 それから何度もキスをして、二人で縺れ合うようにして真っ昼間っからベッドに沈んだ。
「…おお、服を脱がすというのは興奮するのだな……。」
「痴女か。変なこと言うな馬鹿。」
 三成は、まるでラッピングペーパーを剥がすかのように丁寧な手つきで俺の衣服を脱がせていく。正直恥ずかしい。
 お互い裸になったあと、三成があげたばかりの指輪を外してしまった。
「あ、それ外しちまうのかよ。」
 それを指摘すると三成は、赤い唇をにぃと釣り上げて妖艶に笑った。


 「俺とお前の間に、邪魔するものなど何一つとしていらないのだよ。」






 その日から、抱き合うときにはお互い何も身に付けないと二人の間に決まりができた。こんな幸せな規則を、これからも二人で増やせていけたらいいと……恥ずかしいけどそう思った。
「三成、好きだ。」
「……俺も……。」




 Happy whiteday!!




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