もっとずっと。


 夜八時過ぎ。いつものように、バイトを終えて帰る先は彼女の部屋。明かりが点いてるから、もうあいつは帰ってるんだろう。今日は寄り道したから、ちょっと遅くなってしまった。
「ただいま。」
 呼び鈴も鳴らさず、合鍵でドアを開ける俺。ついでに、お互いが持っている鍵には、以前ディ○ニーランドで買ったお揃いのキーホルダーが付いてたりする。
「お帰り。遅かったな。」
「ああ、ちょっと本屋に寄って来て。…つーかお前何食ってんだよ。」
 俺を出迎えてくれた三成は、銀色のボウルを抱えていて、そん中にスプーンを突っ込んで何かを食っていた。
「フルーチェだ。」
「ボウル食いかよ。お前腹弱いんだから、あんま食い過ぎんなよ。」
 確かにフルーチェはうまいけど。それと、
「そんな下着みたいな部屋着、まだやめとけ。風邪引くぞ馬鹿。」
 奴の格好は、明るい黄色にオレンジ系のチェックが入ったひらっとした丈が長めのキャミソール。それに同じ柄のカボチャパンツをはいていた。どう考えても寒いだろそれ…。
「お前は俺の母親か。おねね様を思い出す。」
 眉間にシワを寄せながら、フルーチェを口に運ぶ三成。
「はは、おねね様か。秀吉様とおねね様、今はどうしてらっしゃるかな。」
「恐らく、あのお二人ならば今生でも一緒になっておられるのだろうな。」
 三成はスプーンを咥えたまま、小さく笑った。俺も笑って、そうだな、と相槌を打つ。すると、ずいっと目の前にボウルが差し出された。
「…清正、フルーチェ飽きたのだよ。やる。」
 ……一箱四人分だしなこれ。まぁお前には無謀だよ。見れば半分も減ってねぇし。



 今日本屋には、いつも買ってる週刊の漫画雑誌を買いに寄ったのだが、そこでちらっと、ゼクシィなんかを見掛けてしまった(まぁ、そりゃあ書店なんだし置いてあって当然なんだけど)。表紙にはウェディングドレスを着てほほ笑む女性。その女性が持っていた、ピンクがメインカラーの綺麗なブーケが印象的だった。
(結婚、か……。)
 もう彼女とは随分一緒にいる気がするが、実際は一年経っていない。でも、あいつと添い遂げたい気持ちは日に日に膨らむ一方だ。俺は結婚する気満々なんだけど、三成はどうなんだろうか。例の部屋着の上から俺のジャージを羽織った三成を見やれば、俺のバッグから勝手にジャンプを引っ張り出して読んでいた。俺より先に読むな馬鹿。特別何を見るでもなく点けっ放しにされたテレビからは、「今時の結婚」だなんてやっていた。若い芸能人の夫婦が何やら喋っている。できちゃった婚だのスピード婚だの。何となく、今この話題はな…と思って俺はチャンネルを変えた。適当にボタンを押した先は、捜査官が主人公のドラマだった。
『血痕、死体……。』
「結婚したい!?」
 ―ぶちん!
 何を言い出す捜査官!思わずテレビ消しちまったじゃねぇか!
「どうした清正。」
 三成は怪訝そうにこちらを見ている。



 ……そうだな、今、言ってみようか。
「なぁ、お前は俺と、将来結婚する気あるか?」
「…は?何をいきなり……。」
「俺は、あんだけど。秀吉様とおねね様ほどとは言わねぇけど、そ、その…幸せに……。」
 くそ、恥ずかしくて三成の顔がまともに見れない…。
「しょ、正直考えたことなどなかったが……お前が…どうしてもと望むなら……。」
 その返事を聞いて、俺はばっと顔を上げた。目の前の三成の顔も、同じように真っ赤だった。もう堪らなくなって、三成の細い体をぎゅっと抱き締めた。
「三成!!」
「か…っ、勘違いするなよ清正!お前が生涯独身だと哀れだと思って俺は…っ!」
「分かってる。お前に捨てられたら俺一生独身だからさ、ずっと一緒にいてくれよ。」
 もう、こいつがどんな言い草だっていいと思った。しようの無い奴だ、と見せたとびきりの笑顔が、全部本心を伝えてくれたから。





 今度の休みはこいつを連れて帰ろうと思う。
(会って欲しい人がいるんだ。)
 もっとずっと、二人一緒にいるために。





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