可愛いわが子?


 先日豊臣に生まれた新しい命。その子に名前を付けたのは、両親の主君であり、二人が尊敬して止まない秀吉であった。
 父親の清正に良く似ていたために、彼の武功の数々や幼名から取って、小さな姫は「虎々(ここ)」と命名された。主から頂いた娘の名に、清正と三成は大いに感激し、大層気に入ったのは言うまでも無い。





 「おねね様、三成と虎々は、今部屋にいるのでしょうか?」
「あら清正!さっきご飯が終わって、三成がお虎々を寝かし付けてる最中だよ。」
「そうですか。おねね様があいつの手助けをして下さるなら百人力です、ありがとうございます。…で、二人に変わりは無さそうでしたか?」
 三成と虎々を見て来たであろうねねを、廊下で清正が捕まえる。そわそわとしている彼が、二人の様子を気にしているのが手に取るように分かった。
 しかし何故自分で娘達に会いに行かないかと言うと、それには理由があった。出産後、母子に秀吉から上等な間が与えられたからである(勿論三成は遠慮したが、ねねに押し切られてそこを使用することになった)。大坂城で秀吉・ねね夫妻の部屋の次に位置する部屋であったため、いくら番で父親と言えども清正が軽々しく足を踏み入れるのは憚れる場所であった。だが、
「何遠慮してるのさ!変なこと気にしてないで、いつでも会いに行けばいいじゃない!お父さんなんだから!」
 ねねはそう言って快活に笑った。
「し、しかし……。」
「いいから!きっと三成も喜ぶよ!ね?」
 ねねにぐいぐいと背中を押され、清正は三成と虎々が使っている間へと向かった。




 「三成、入るぞ。」
 虎々が寝ているといけないので、清正はそぅっと襖を開けた。すると案の定赤子は豪奢な布団の中で眠っていて、その隣りで三成も横になっていた。
「清正か。少々、久し振りな気がするな。」
「悪ぃ、会いたかったんだが……どうにも、場所がな…。」
 少し拗ねているような恋人に、清正はばつが悪そうに苦笑いをする。
「そうだな、確かに高過ぎる部屋だなここは…。俺達にこの待遇は勿体無さ過ぎる……。」
 現在使用しているこの部屋も、着物を始めとした身の回りの品も、与えられるもの全てが己の身に余ると三成も困惑気味だ。
「まぁ、秀吉様からのご厚意だ、有り難く頂戴するしか無いがな…。」
 そう言って寝息を立ている娘の髪を撫でる三成は、もうすっかり母の顔をしていた。



 「三成、虎々が寝たなら少し……。」
 いちゃいちゃしたい。

 清正は三成の手を取り隣りの部屋にでもと場所を変えようとするが、彼女は動いてくれない。何故かと思い覗き込むと、
「虎々が…裾を……。」
 三成の着物の袖を、虎々がしっかりと掴んでいたのだった。こうして母親を離すまいとしているわが子を見ると忍びない気持ちにはなるが、清正だって三成を独占したかった。
「お前の母上はな、父上の可愛い人でもあるんだよ。少しだけ、返してくれな…。」
 そう言って虎々の手を解こうとするが、存外力が強くうまくいかない。無理にすれば目を覚ましてしまうだろう。


 「仕方無いな、じゃあこのままちょっとだけ……。」
 清正が三成の頬に触れ、唇を重ねようとしたその瞬間、
「うぇえええ!!」
 姫が急に泣き出した。
「虎々、どうした?」
 自分を見ていたはずの恋人が一気に母親に戻ってしまい、しようの無いこととは言え清正は心の中でがっかりしていた。そして姫は、母親の腕に抱かれるとすぐに泣きやんだ。



 「可愛いな……。」
「ああ。」
 ふにふにとした自分達の娘を見て、二人はほほ笑み合った。
「ほら、父上だぞ。」
「…あぶっ!」
「いてっ!?」
 三成が清正に虎々を抱かせようとすると、まるで「嫌だ!」とでも言うかのように虎々は清正の手をはたいた。それから、三成にすがりつくように彼女の胸に顔を埋めたのである。……気のせいかも知れないが、その際、どや顔で父親を一瞥したような。
「こ、こいつ……!!」
「ぷー!」


 清正VS虎々姫の、三成争奪戦の火蓋が切って落とされた瞬間であった。



 「お前ら……そっくりだな……。」
 そんな二人を見て三成は、一人呆れ顔をしたのだった。




- 26 -


[*前] | [次#]
ページ:





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -