はじめましてA


 「清正、ホレ稲殿の例もあるしの、きっと美しくて力強い姫になるじゃろうて!」
「そうだよぉ!お父さんに似た女の子は幸せになるって言うじゃない!」
 敬愛する秀吉とねねの言葉さえも慰めに聞こえて、清正は困ったように笑うしかなかった。そんな清正の震える握り拳を、布団の中から伸びて来た三成の白い手が撫でる。
「お前の血を引いた子だ。俺は、世界で一番可愛いと思う。」
「三成……。」
 彼女の手をしっかりと握り、指先に口付ける清正。
「ああ、俺とお前の子だ…可愛くない訳がないな。」
 彼の返答に、ふふ、と三成が優しく笑った。



 「……あー…。なんじゃ、ワシらはお邪魔かの…。後は、親子水入らずで三人で過ごしとくれ!ささ、ねね、正則!左近も、行くで〜!」
 秀吉がそう言うと、四人は足早に部屋を出てしまった。「俺叔父さんかよ〜」とか、「あたしなんておばあちゃんだよ〜」などの会話が聞こえたが。

 「……こーゆーのも、何だか照れ臭いな……。」
「…そうだな。」
 照れた二人は、しばし無言になってしまった。





 「しかし、無事に生まれて来てくれて本当に良かった…。会いたかったぞ、この世で一番愛しい子……。」
 三成は眠る娘を抱き寄せて、その丸くて柔い頬にキスをした。
「じゃあ俺も。」
 清正はごろんと三成の隣りに横になると、自分の娘ではなく恋人の頬に唇を落とした。
「な…っ、清正!?」
「生まれたばっかの姫にゃ悪ぃけど、俺が世界で一番愛しいと思う存在ってのはお前だからな。」
 顔を真っ赤にする三成に、清正がニッと笑う。
「この先何人子供が生まれたって、みんなお前の次だよ。」
「馬鹿、俺と子供を同じ秤にかけるんじゃない。

……だが、そういった意味では……俺だって、そ、その…お前が一番……い、いや!やはり何でもないっ!!」
 言いかけて恥ずかしくなって、がばっと布団の中に隠れてしまう三成。だが恋人の手によってその隠れ蓑は呆気なく剥がされてしまった。
「あんまり可愛いこと言ってくれんなよ。こっちはご無沙汰なんだから、ムラムラすんだろーが。」
 そう言って、不穏な動きをする清正の手。
「貴様、ふざけるな!」
 三成は嫌がって抵抗するが、産後であまり力が入らず思うように体が動かなかった。
「流石に今日はする気はねーよ。触るだけだ。だから、あんまり暴れんな馬鹿。体に障るだろ。」
「ならやめろ馬鹿っ!」
「嫌だね。体調回復したら覚悟しとけよ。」

 己の体を優しく触れて回る大きくて温かい手に、不本意ながらうっとりとしてしまう三成。
「馬鹿が……。」
 珍しく、素直になれそうだった。

 「なぁ清正、しばらくは我慢してくれないか?産後の体が戻るまでは、見られたくない…。少し、は、恥ずかしいから……。」
「馬ぁ鹿、どんなお前だって綺麗に決まってる。だから「ぎゃああぁぁん!!」
「「!?」」
 先ほどまでおとなしく眠っていたはずの姫が、突然凄まじい勢いで泣き出した。ひょっとしたら、隣りでちちくり合い始めた両親が鬱陶しかったのかも知れない。



 「よしよし、腹が減ったのか?」
「おお、授乳か。遠慮無く始めろ。」
「出て行け馬鹿正!!」





 仲が良過ぎるこの父上と母上のこと、今日生まれたばかりの姫が、お姉ちゃんになる日もそう遠くはなさそうだ。




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