子猫とお仕事A


 仲良く戯れている一人と一匹を眺めながら、俺はぽりぽりと頬を掻く。正直、その光景が可愛くて堪らない。

 「その、まぁ…なんだ……。
あんまり忙しいようならこっちにも少し回せよ。俺じゃ分かんねーこともあるかも知れねぇけど……。」
「…なんだいきなり気色の悪い。お前がそんな気遣いを俺に示すだなんて……何か悪いものでも食ったのか?」
 俺のせっかくの申し出に、怪訝な表情をして可愛くない返答の三成。
「違ぇよ。同じく豊臣の仕事だろ。同じく秀頼様の為にと働いているのに、お前にばっかり負担が行くのはおかしいだろうが。」
 なんて、尤もらしいことを並べてみる。勿論これだって三成を手助けしたい理由のうちではあるが、本音を言えばこいつの元に代わる代わる男が訪ねて来る事態をなんとかしたいのだ。何より、好いた相手の役に立ちたい…ってのは誰だって思うところだろう。
「…そう、だな…。ならば今回はお前の手を借りるとしよう。本当は、俺一人で充分なのだが。」
 そう言ってふふんと笑う三成。相変わらず素直では無いが、その表情からは安堵が見て取れた(多分俺やおねね様、左近など近しい者じゃないと分からないと思われる)。多少なりともこいつの助けになれるのなら…と内心嬉しく思っていると、にゃん、と子猫まで同調して笑ったように見えた。


 「早速だが清正、こちらの件を頼みたい。先日の大雨で、城内に少々被害のあった箇所があるだろう。そちらの補修の指示を任せていいか?」
 器用に片手で子猫を抱きながら、三成は壊れたり崩れたりしている場所に印しがしてある城内図を俺に差し出す。それを二人で覗き込む形になったが……距離が近過ぎて何を話しているのか全く耳に入らない。
(うぅ…!イイ匂いがする……っ。)
「大まかな説明は以上だが、分かったか?」
 顔を上げた三成と視線がかち合う。三成とこんな至近距離で見詰め合ったことなど、無い。顔面に熱が集中していくのが分かった。
「…わ、わわわわわ分かった!!これ、借りてくな!!」
 これ以上この場にいられなくなって、三成から城内図をひったくるように奪うと、俺は自室へと一目散に駆け出した。


 「………何だあいつは……。」
「にゃーん…。」




 三成のところへ猫を忘れたことに後から気付いたが、会いに行けるいい口実ができた。あのチビ猫は明日引き取りに行こうと思う。







 その後、
「……清正…。」
 三成が頬を薄紅色に染め、彼の名前を呼んで子猫の額にそっと口付けたことは、この虎模様の猫以外に誰も知らない。






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