子猫とお仕事@
虎模様のこの子猫を拾ってからというもの、三成は暇さえあれば俺の私室に足を運んでいた。俺に会いに…だったら良かったのだが、件の子猫に会うためだった。奴は文字通り猫っ可愛がりをしていて、あのチビ猫もチビ猫でやたらに三成に懐いていやがった。
だが、ここ一週間ほどか。三成はめっきり姿を現さなくなった。
「加藤殿、石田殿をお見掛けしませんでしたか?」
廊下で会った、若手の家臣。俺と同い年か、一つか二つ下か。見知った顔のそいつが、困った表情をして三成を探していた。
「いや、見ていないが……。三成に何か用か?言伝があるなら聞いておくぞ?」
「はぁ、此度は課税率の改定についての案件のことで……石田殿に助言を賜りたく…。自分一人ではどうにもままならなくて……。」
眉を下げて、何とも情けない顔だ。そこへ、また違う家臣(今度は年嵩の男)がやって来た。
「すまぬ、加藤殿。石田殿を知りませぬか?」
………同じ用件と来たもんだ。
どうやら、三成は忙しくて猫に会う暇など無かったらしい。
しかも、周囲に頼られて、本来あいつがやらなくていい仕事まで手伝っているらしい……。奴はあんな一本気な性格だから、豊臣家のためになるのならどんな仕事もこなすだろう。己の体調も顧みずに。
俺は、あいつの気晴らしくらいにはなればいいと、子猫を連れて三成の部屋を訪ねた。
「にゃおん!」
一目散に三成に駆けて行く猫。そうか、お前も会いたかったのか…。
「トラ!…と、清正か。」
横目で俺を見ながら、三成はチビ猫を抱き上げた。
「ついでみたいに言うな馬鹿。せっかく連れて来てやったのに。」
部屋の中には堆く積まれた資料に、書き上がっているのかいないのか、大量の文が散らかっていた。おおよそこいつらしくもない部屋の乱れようだ。
「忙しそうだな。そいつの手なら貸してやるぞ?」
そう冗談めかして言ってやると、
「こいつがいてくれるだけで癒しにはなるが…。今は忙し過ぎて相手をしてやれぬ。借りても困るだけだな。」
意外にもまともな返事をされてしまった。
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