子猫と自覚


 別に、最近気付いた訳でもねぇんだけど。


 睫毛が長いとか、白い肌がキメ細やかで綺麗だとか、案外手が小さいとか、どんぐりみたいな瞳が可愛いとか、髪が真っ直ぐでつやつやだとか。

 あいつは、黙ってれば見られる容姿をしてるんだ。




 それが、何で今更こんなに気になるんだろう。

 ……いやいや、あんな態度がデカくてツンケンしてて、身体だって発育の悪い(直接見たことはないけど)女、全然好みじゃない筈だ。俺はおねね様みたいな、包容力があって優しくて、体つきだって豊満な女性が好みなんだ。……そんな女性が好きだった、筈なんだが……。


 俺はどうかしちまったらしく、この頃、三成が可愛く見えてしょうがない。







 「清正、何だその猫は。」
 それ、と三成が指差したものは、俺の腕に抱えられていた子猫。
「門のとこに捨てられてたんだよ。」
「飼うのか。」
 三成は、興味津津といった体で茶色い虎模様の子猫を覗き込んでいた。
「拾った以上はな。俺が責任持って世話するつもりだ。」
「そうか……。」
 三成が指先で子猫の額に触れると、にゃお、と甘えた声を出した。こいつオスだな、多分。



 それからと言うもの、
「トラ、トラはいるか。」
 三成は例の子猫目当てでよく俺の私室を訪ねて来ていた。
「縁側で寝てる。
つーかトラってややこしいからやめろよ。」
 確かにあの猫は虎柄だから、見た目でそう呼んでいるのだと分かる。だが、自分の幼名と重なるのでどちらを呼んでいるのかと少々ややっこしいのだ。
「ならば飼い主であるお前が名前を付けてやれ。」
「それもそうだな。」
 そう言えば奴に名前らしい名前は付けてやってなかったな。しかし、どんな名前にしてやればいいか…。俺が考えあぐねていると、三成の声を聞き付けたのか子猫がちょこちょこと走り寄って来た。あの子猫も、三成がお気に入りなのだ(案の定こいつはオスだった)。
「トラ!」
 足下にすり寄る猫を、三成は嬉しそうに抱き上げた。なんか相思相愛で、少し悔しい。


 「そうだな、この猫の名前はチビ虎なんてどうだ?
お虎。」
 そう言って柔らかくほほ笑んだ三成に、俺の心臓は高鳴った。
「……そ、そんなの、ダメだ!」
 顔が熱いのを悟られないように、俺は文机の方に向き直り書物を手に取った。お前の主人は冷たいな、にゃお〜、だなんて一人と一匹の会話(?)が背後から聞こえてきたが、俺はこの早鐘を打つ心の臓を如何にして治めるかで頭がいっぱいだった。







 俺は、三成に恋をしている。





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