思春期未満お断りA
つい先日のこと、虎之助は佐吉の裸を見てしまった。それは本当に事故であり、偶然に、風呂場でお互い全裸のまま鉢合わせてしまったのだ。
そのときの二人のリアクションはここでは割愛するとして、
その佐吉の肌が、虎之助は忘れられなかった。女の肌とはあんなにも白くて綺麗なものなのか。
女だからじゃなくて、佐吉だからあんなに美しかったのかも知れない……と思うほどに、彼は彼女に焦がれていた。
皆がまだヒソヒソと話をしている内容が気にならないと言えば嘘になるが、佐吉のことで頭がいっぱいな虎之助は、もう寝てしまおうと決めた。しかし、目を閉じれば一糸纏わぬ彼女の姿が浮かんでしまう……。虎之助は悶々としながら睡魔の訪れを待ったのだった。
虎之助は、腰の辺りに違和感…いや、何かの重みを感じて目を覚ました。すると、己に跨りこちらを見下ろす佐吉と目が合った。
『虎之助……。』
『佐吉!?お、お前…何で……っ!つーか何やってんだよ!?』
彼女は生まれたままの姿であった。気付けば自分も何も身に着けていない。そんな状態で身体を密着させて来る佐吉に、虎之助は混乱してしまっている。
『離れろよっ!』
頭がどうにかなる手前で虎之助は離れるようにと抵抗するが、直に感じる好いた相手の温度と感触に、力など入るはずが無い。自分の胸筋にぴったりくっついて、佐吉の控えめな乳房がふにっと潰れているのが分かる。
『…嫌だ。俺はお前と……。』
佐吉の手が、無遠慮に虎之助の身体を這うように撫でて行く。
『さ、佐吉…っ!』
堪らず虎之助は、佐吉を押し倒した。彼女は、うっとりとした表情で彼を見詰めている。
『お虎…早く……。』
『佐吉!!』
まだ日が登り切らない早朝、虎之助は眠りの淵から一気に覚醒した。今まで見ていた夢の内容と、下穿きの嫌な湿り気に冷や汗が吹き出す。
(お、俺は何ていう夢を……っ!!)
虎之助、生まれて初めての夢精であった。
まだ他の小姓達が起きる前だったのが幸いか、虎之助は部屋をそっと抜け出して井戸へ行き下穿きを洗った。あまりの羞恥に彼は今にも泣き出しそうだ。そして、佐吉に対しては言い知れぬ罪悪感を感じていたのだった……。
「虎之助?早いな。」
ふと声を掛けて来たのは、なんとその佐吉。虎之助は、思わず激しく後退りをした。
「さ、ささささ佐吉!?何だよ、何の用だよ!?」
「顔を洗いに来ただけだが?」
虎之助の心情など知るはずも無い佐吉は、平然と彼の隣りに立って井戸から水を汲み始めた。彼女の白い手から、水が滴る。
(さっきの夢では、あの手が…俺の……。)
「うわぁああああ!!」
虎之助は、顔を真っ赤にして奇声を上げながらどこかへと走って行ってしまった。
「………?
朝から迷惑な奴だな。」
一人残された佐吉は、ぽかんとしながら遠ざかる幼馴染みの背中を見詰めていた。
それから。
「佐吉、佐吉」と言う寝言を市松に聞かれていた虎之助は、散々からかいの対象となり、また佐吉を以前にも増して意識してしまうのであった。小さなことでも彼女が関わると、言動がどうにもおかしくなる。
…かわいそうに虎之助は、思春期特有の病にかかってしまったのだ(しかも、かなり重篤化している)。
心も身体も自分の言うことをまるで聞かない彼のこの病気を、治せるのは佐吉唯一人であった。頑張れ虎之助!
―おしまい―
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