アオゾラペダル(清三・現パロ/高校生)


 チリンチリン。


 俺の朝は、愛しいお姫様を迎えに行くところから始まる。石田家の門柱の前で二回自転車のベルを鳴らすと、
 ガラッ
「今行く!」
 二階の窓から三成が顔を出す。今日は珍しく慌てている様子だった。寝坊でもしたのか?

 玄関から出て来た三成は、手櫛で髪の毛を整えていた。
「そんなに慌てなくても、遅刻するほどの時間じゃねぇだろ。」
 携帯を開き時刻を確認すると、思った通り全然余裕の時間。
「人を待たせるのは嫌なのだよ。」
 俺の自転車の前カゴに鞄を放り込みながら三成が言う。折り目正しいっつーか、融通が利かないっつーか何つーか。俺にくらい気を遣わなくてもいいのにと思う。
「俺は別に気にしねぇけどな。お前を待つのも、この寝癖も。」
 ちょろりと跳ねた三成の髪を撫でてやる。言ったら怒られるから口にしないが、このアホ毛、結構可愛い。
「……ふん、自転車に乗れば髪などまた乱れるしな。」
 まだ少し前髪を気にしながらも、三成は自転車の後部座席(俺はこう呼んでいるが、要は荷台)に座った。
「スカート捲れないように座ったか?」
「当たり前だ。」
 俺の自転車は、以前は荷台など付いていなかった。三成を初めて後ろに乗せたとき、はためくセーラー服のスカートが気になって仕方がなかったので荷台を付けた。今ではその上に、ファンシーなピンクの花柄の座布団まで付いている始末。



 「俺が飛ばせばあと三十分は遅くても間に合うんだぜ?」
 ペダルを漕ぎながら後ろの三成に言う。俺は前にこうして二人乗りでの帰宅中、パトカーを撒いたことがある健脚なのだ。
「あまりスピードを出されると酔う。お前の背中にリバースしてもいいと言うのか?」
「浴びるのは大丈夫だけど取りあえずは遠慮しとく。」
「変態か貴様。」



 俺と三成は家が近所で所謂“幼馴染み”ってヤツだ。そこから“恋人同士”にステップアップしたのはつい最近で。しかし男女のお付き合いを始めたからと言って、俺達の関係は特別変化していない。ずっと前からこいつが大好きだった俺にしてみれば、三成も同じ気持ちでいてくれてるってだけで十分幸せだ。背中にぴったりくっつく体温が、夏だというのにとても心地良い。三成もそう思ってくれてたらいいのに。
「学校、行きたくねーなぁ…。」
 お前とずっとこうしてたいんだ。
 ぼそりと零した言葉に、返事をしない三成。しばしの間。




 「………行くなら、海がいい。」
「了解、姫。」


「方向転換!」
「向かうは海!!」
 二人でくすくす笑って。

 通い慣れたキッツイ上り坂も、このダッサイママチャリも、お前と一緒なら何でも特別に感じるよ。さて、海まで何時間?



    ―終―

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