幼心、恋心@(虎佐+子飼い組)


 虎之助には、少し気になる人物がいた。少し前に、秀吉が連れて来た子供。その子の名前は佐吉と言って、肌が白くて瞳が大きくて、つやつやで夕焼けみたいな色をした髪の女の子。南蛮の青い目をした珍しい人形ほど派手ではないが、町で売っている上等な人形よりずっと綺麗で可愛いと虎之助は思っていた。




 佐吉とお話したいけど、佐吉はあまりお庭に出て来ないし、道場にも来ない……。

 佐吉と仲良くなりたいのだけれど、幼い虎之助にはどうすればいいのか分からなかった。ただ、彼女が書物を読むのが好きだということは、しばらく見ていて判明した。一緒に本が読めたら良かったのだが、なにぶん虎之助の方が年下であるため、佐吉が好むような難しい内容はまだ虎之助には理解できないので不可能なことであった。



 (あ、今日もまた紀之兄と一緒にいる…。)
 庭先で他の小姓達と共に剣術の鍛練をしていた虎之助の目線の先には、縁側で二人並んで本を読む佐吉と紀之介の姿。紀之介はあまり身体が強くは無かったので、彼もまた屋内にいることが多かった。
「はぁ〜…、さきちゃんは可愛ぇなぁ…。」
 横で木刀を振るっていた弥九郎がうっとりと呟いた。どうやら、同じく佐吉を眺めていたらしい。
「将来、絶対俺の嫁はんになってもらうんや!そのためにはまず強い男にならんと!」
 弥九郎は決意も新たに、木刀を握り直した。しかし、今の台詞を聞き捨てならないのは虎之助であった。
「佐吉が誰のお嫁さんになるかは、まだ分かんない!」
「ん?何やお虎聞いてたんか。お前みたいなチビスケにはさきちゃんは釣り合わんでぇ。あの子は俺が守ってやるんや、安心しぃ!」
 ふざけ半分に、弥九郎は虎之助に木刀を突き付けた。弥九郎と虎之助の歳の差は七つ。小さな虎之助が敵うはずがなかった。

 「……っ、う、うぅ…っ。」
 虎之助が泣き出しそうになったそのとき。
「弥九。」
 いつの間に来たのか、佐吉がすぐそばに立っていた。
「あまり小さい子をいじめるな。」
「さきちゃん!いじめるだなんて人聞き悪いなぁ〜。そんなんちゃうてぇ…。」
 慌てて木刀を下ろす弥九郎。
「泣かせてしまっても後味が悪かろう。」
 ヒヨコのようにふわふわとした清正の頭を、ぽんぽんと撫でてから佐吉は縁側へと戻って行った。清正は、気になる女の子に庇われて情けないやらみっともないやらでまた涙が出そうになったが、ぐっと堪えた。
 「さきちゃん、やっさしいなぁ〜…。」
 叱られたにも関わらず、弥九郎はぽやっとした表情をして嬉しそうだった。



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