過去拍手C(清三)


 “I LOVE YOU”を訳しなさい。




 今日は激しい夕立があった。突然の雷雨は煩わしいものだが、最近続く酷暑を沈静化させるような雨は、有り難く感じた。昼間に比べて幾許か涼しくなった風が髪を撫でていく。


 恵みの雨をもたらした雲は既に何処かへと行ってしまい、真ん丸の月がぽっかりと空に浮かんでいた。



 中庭を挟んで見える三成の部屋。そこの灯だけが、夜半を過ぎても消えなかった。
(あいつ……。)




 「おい。」
 俺は無遠慮に三成の私室の障子を開けた。
「…お前か。こんな夜更けに何の用だ。」
 文机に向かっていた三成は、不機嫌そうに俺を見る。…やはり仕事をしていたのか。
「お前こそ、こんな真夜中に何やってんだよ。」
 溜め息混じりにそう言ってやると、三成は脇に堆く積まれた書状をぺしぺしと叩いて、
「見て分からんか、俺にはやらねばならん仕事が山のようにあるのだよ。」
 また机に向き直ってしまった。
「今日中に済ませなきゃなんねぇもんでもねぇだろ?」
「おい、離せ…っ!」
 執務をやめる気配の無い三成の手首を掴んで、無理やり引き寄せた。
「お前…また痩せただろ。無理すんじゃねぇよ。」
「俺は無理など…」
「してるだろ。ここんとこ毎日、お前の部屋は夜中を過ぎても灯がついてる。」
「忙しいことなど構わん。書状で解決できる事柄が増えたのは、世の中が平和になった証しに他ならないからな。」
「馬鹿、それで体壊したらどうすんだよ!」 
 こいつの自分の身を厭わぬ物言いに、思わず声を荒げてしまった。喧嘩をしに来た訳ではないのに。
「……俺はお前ほど頭が良くないからな。お前に倒れられたらままならないことだって、あるんだよ。」



 一応休むつもりはあったのだろう、部屋に敷いてあった布団に強引に三成を寝かした。じたばた暴れたが、奴が力で俺に敵う訳がない。
「…お前は正則の世話だけ焼いていればいいだろう。」
 不貞腐れた三成が布団から半分だけ顔を出す。
「お前と正則は違う。
…お前には、言わなきゃ分かんねぇだろうな。」




 …流石に少々恥ずかしい。頭をがしがし掻いてから、一つ息を吐いて。

 「俺は、お前のことが大切だから。」

 「な…っ!何を馬鹿な…!!」
 三成は頭まですっぽりと布団の中に隠れてしまった。
「…俺はもう寝る!さっさと出て行け馬鹿!」
「ああ、早く寝ちまえ馬鹿。」
 俺は布団の上から三成の頭を撫でた。



 「清正。」
 俺も帰って寝るかと障子に手をかけたときに、不意に布団の中から呼び止められた。
「ん?」
「………“また…、明日”、な。」
「ああ、おやすみ。“また明日。”」



 あいつがどんな顔をして言ってくれたのかは分からなかったけれど。明日は朝起きたらすぐ、三成に会いに行こうと思った。



    ―終―


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