過去拍手B(三成に振り回される左近と清正)


 今日は特別に暑い。

 なんと言うか…いつも涼しい顔をしたうちの主がだるんだるんになるくらいに。考えられないだろうが、今俺の目の前には部屋の襖を開け放ち、良い香りのするい草の上に書物を片手に転がっている殿がいる。

「左近、俺は氷菓子が食べたいのだ。」
 …そんないつかの大戦みたいなおねだりしないで下さいよ。ごろごろこっちに転がって来ない!
「左近、頼りにしている…。」
 瞳をうるうるさせて見上げる殿。どこで覚えて来たんですかそんな顔!


 「…分かりましたよ、用意させますから待ってて下さい。」
 俺はそう返事をすると部屋を出た。




 厨で特別に用意してもらった氷菓子を受け取る。ふわっふわの氷に蜜がかかって、その上には小豆が載って抹茶の粉までふりかけてある。これは涼しげでうまそうだ。きっと殿も満足してくれるだろう。



 それを持って戻る途中、桶を抱えた清正さんに会った。
「おや清正さん。そんなおっきな桶、どうするんですか?」
「…いや、これは三成が……。」
 よく見ると、その桶の中には氷水が。
「清正さんも殿にねだられたんですか……。」
「じゃあそれもあいつのか。」
 お互い、最早苦笑と溜め息しかこぼれない。


 「殿。」
「三成。」
 二人してそれぞれ用意したものを渡すと、殿はご満悦の様子。まぁ、風通しのいい縁側で氷菓子を頬張って、足下は氷水で冷やして……快適じゃない訳がないのだが(それを見て身体を冷やし過ぎやしないかと心配する自分は末期である)。



 「左近。」
 その一言と共に、匙に載せられ差し出される氷菓子。
「こりゃどうも。」
 殿手ずからとは有り難いご褒美ですな。なんて冗談を言いながら遠慮なくご馳走になったが、その一口は格別にうまい気がした。

 「清正。」
 桶の真ん中に白い足を泳がせていた殿が少し端に除けた。清正さんにお前も入れ、との意思表示なのだろう。
「俺が用意したんだから当たり前だろう…。」
 文句を言いつつも清正さんはどことなく嬉しそうに殿の隣りに座る。
「少々寒くなったのでな。」
 と、清正さんにもたれる殿。その小さな口はもぐもぐと氷を咀嚼し続けている。
「……暖を取るためかよ。」

 …さりげなく殿の肩に回された奴の手をはたき落としてやろうかとも思ったが、俺は大人なので実行はしないでおいた。



「うむ快適だ。」
殿が満足そうにほほ笑む。


「「……そりゃそうでしょう(だろう)よ」」




 見事に女王蜂に懐柔されている俺達。これが殿の軍略ならば、一生敵いそうにはない。



    ―終―



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