過去拍手19(BSR・幸三、新年ネタ)
三成が目を覚ますと、共寝をしたはずの男は既に隣りにいなかった。常ならば自分の方が先に覚醒し、彼を起こすのであるが、珍しいこともあるものだと三成は思った。だがその反面、黙って置いて行かれたようでつまらない気持ちにもなった。
「うおぉおおおお!!!」
三成がまだ眠い眼を擦ると、中庭の辺りから聞き慣れた男の大声が聞こえて来た。こんな朝っぱらから他人の迷惑を顧みずに叫ぶ者など……真田幸村をおいて他にはいない。三成を置いて布団を抜け出した張本人だ。
三成は何事かとすぐにでも声のする方へと向かいたかったが、寝間着で外へ出るのには今朝は些か寒過ぎる。藤色の着物に袖を通して帯刀し、いつも通りにきちんとした格好で寝室を後にした。
「み、な、ぎ、るぁああああ!!!」
「大将、もうちょっと加減してよねー。餅が飛び散ってるから…。」
三成が中庭を覗き込むと、幸村と佐助が巨大な臼を使って餅つきをしていた。発生している音は、「ぺったん」だなんて可愛らしいものでは無く「ビタアァアンッ!!」という重く激しいものだ。
幸村は熱心に杵を振り下ろしていて暑くなったのか、上半身の着物を脱ぎ、袴の帯の部分に引っ掛けている状態だった。
「おお、三成どん!」
「やれ、三成もこの騒ぎで起こされてしまったか。」
真田主従の傍らには義弘と吉継もいて、義弘は時折杵を握り手伝いをしていたが、吉継は傍観を決め込んでいるようだった。
「三成殿!!」
三成の姿を確認すると、幸村はパッと手を止めた。餅を捏ねていた佐助は、タイミングを外されてコケてしまった。
「餅をついているのか。朝から良くやるな…。」
転んで顔面に泥の付いた佐助に手拭いを投げてやりながら、三成も中庭に降りた。
「少々待っていて下され、極上の餅をそなたに!!」
「………。」
幸村の少年のような笑顔に三成は僅かに頬を染めた。微妙な表情の変化であるが、それに気付かない者はこの場にはいない。そんな親友を見て、吉継の加虐…否、イタズラ心がむくむくと大きくなった。
「ヒヒッ、三成よ、新年早々見せ付けてくれるなぁ…。」
「何のことだ?」
ニヤニヤ笑う吉継が指差した先を三成が見ると、幸村の引き締まった背中が。
そこには。
「な…っ!!?」
良く見なくても分かるような、真新しい爪の痕と引っ掻き傷があった。それを確認した三成は、真っ赤な顔をしながら弁明を始める。
「あれは、猫が!昨晩猫が入って来て!!」
「ほほぅ、随分と大きな猫だな。ソレはさぞかし可愛い声で鳴いたろ、なぁ真田?」
「…へ?猫でござるか?」
佐助も吉継に同調し、意地の悪い笑みを浮かべながら幸村に言う。
「大将、昨日の夜は銀色のかーわいい猫ちゃんと戯れてたんでしょ?でもいじめちゃダメじゃん、背中引っ掻かれてるぜ。」
何を言われているかを理解した幸村は、ボッ!と音が聞こえるほどの勢いで顔を赤くした。
「そ、そそそれは!そう、猫殿でござるよ!!」
「本当に、猫が迷い込んで来たんだ!」
「それに、某は猫殿をいじめてなど…っ!」
言い訳する二人を、三人は薄ら笑いを浮かべながら見ている。
「おいおいお前さん達、随分と騒々しいじゃないか。城内の連中も驚いてるぞ。もう少し静かにやれないのか?」
そこにひょいと現れたのは官兵衛だった。脅威的なタイミングの悪さである。
「官兵衛!貴様そこへ直れ!!」
窮地に追い込まれていた三成がそれを見逃すはずも無く、刀を構えて官兵衛に向き直った。
「お、おい!小生が何をしたってんだよっ!?」
防衛本能が働いたらしく、官兵衛はすぐさま逃げ出した。
「待て!大人しく私に刻まれろ!!」
「黒田殿の成敗、某も助太刀致します!!」
三成と幸村は官兵衛を追いかけ、あっと言う間に見えなくなった。
その場に残された義弘達は、にやけてしまうのを自重しないで餅つきを再開したのだった。
「今年も良か年になりそうじゃの!」
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