過去拍手17(BSR・幸三、学パロ)


「三成殿〜!!」

登校途中、幸村は三成を見付けるや否や、大声を出しながら彼の元に駆けて行った。
幸村の騒々しさには同じ学園の生徒ならば見知ったもの、もしくは慣れたものであるが、道行く通勤途中のサラリーマン、ゴミ出しの主婦などはびっくりして皆一様に彼を振り返った。

「おはようございますっ!」
「…喧しいぞ真田。そんなに大きな声を出さずとも聞こえる。」

呼び止められた三成は意図せずして自分まで注目されてしまい、ぎろりと幸村を睨み付けた。だが、三成のそんな険しい表情もすぐに崩れてしまう。
何故ならば。

「貴様、視力が悪くなったのか?」

昨日までは無かったはずの眼鏡が、幸村に装着されていたからだった。「両目2.0でござる!」と身体測定のときに言っていたから、三成が黒縁のそれを不思議に思うのもおかしなことでは無かった。

「そうではありませぬ、これは伊達眼鏡でござる!」
「……下らん。」

ニカッと笑って見せた幸村に背を向けて、三成はさっさと歩いて行ってしまった。少々機嫌が悪くなってしまったように思える。

「あっ、み、三成殿ぉ!!」

慌てて三成を追い掛けた幸村だったが、とうとう教室に着くまで一度も、目を合わせてはもらえなかった。



三成の機嫌が急降下したのには理由があった。
それは彼自身が近眼であり、眼鏡が手放せないということにある。いつもかけているシルバーフレームの眼鏡は三成に良く似合っていたし、彼をより知的に見せたが、やはり何かと不便なことには変わりない。
(以前友人の元親に「コンタクトにはしねぇのか?」と言われたことがあったが、三成は「あんな異物を眼球に密着させる意味が分からない」と一蹴していた。)
よって、視力に何の問題の無い人間が、わざわざ眼鏡をかけることに理解が及ばないのだ。『アイウェア』だとか、『メガネ男子』だとか、そんな言葉を使って眼鏡をアクセサリー感覚で身に付ける輩などは残さず斬滅してやりたいほどであった。

「馬鹿馬鹿しいことこの上無い。」
「そんなぁ〜……。」

『伊達眼鏡』という存在を全否定する三成に、目下装備中の幸村は涙目だ。

「三成殿は眼鏡が似合っていて素敵だから…。眼鏡をかけたら、某も少しは頭が良さそうに見えるかな…と、思いまして……。」

幸村は決して眼鏡が似合っていないわけでは無かった。彼は童顔であるために『知的』とは言い難いかも知れないが、教室にいる生徒達の中には、いつもと雰囲気の違う眼鏡姿の幸村をちらちらと見ている者もいるほどだった。
しかし三成は厳しい。

「その考え自体が愚かしいと言っている。その無意味な代物を外すまで私は貴様とは口を利かんからな、このチャラメガネ。」
「チャラメガネ!!」

二人の会話を聞いていた元親が吹き出した。……確かに、的を射た表現と言えなくも無い。

「あんまりでござるぅー!!」

うわーん!と喚きながら、幸村は眼鏡を外した。
それを確認すると、三成はふっとほほ笑んだ。

「……やはり、貴様に眼鏡はいらん。」
「…へ?」

髪をぽんぽんと撫でられて、幸村は顔を真っ赤にした。

「ならば…っ、これ!この眼鏡は三成殿に差し上げまする!」

幸村は何を思ったのか、先ほど外した眼鏡を三成に押し付けた。

「幾許かでレンズに度を入れてもらえますので、本日、早速放課後に眼鏡屋さんに参りましょうぞ!!」
「お、おい真田…!?」

決まりでござる!と三成の手を握り、ぶんぶんと振り回す幸村。何を言ってももうダメだと悟った三成は、小さく溜め息を吐くのみでされるがままだった。

(今日は帰りが遅くなると、半兵衛様にメールをしておかなければ……。)



後日。
三成は幸村からもらい受けた例の黒縁の眼鏡をかけて登校して来た。いつもの金属フレームのものとはがらりと雰囲気が変わり、周囲に騒がれ話題になったのは言うまでも無い。

だが、その眼鏡のツルの内側に、ご丁寧に『真田幸村』とネームが入っていることは……幸村と三成しか知らないのであった。

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