過去拍手15(BSR・幸三)


ばたばたとうるさい足音と、耳障りなほどの大声が聞こえて吉継は眉を顰めた。

(やれ、また武田の虎若子が騒いでおる。)

だが、幸村が騒がしいのは既に慣れたことと、すぐに読んでいた書物に意識を戻した。

「三成殿〜!待って下され〜っ!!」
「ついて来るな!!」

幸村の大きな声と、三成の怒鳴り声。親友が関わっているのはいささか気になるけれど、これも慣れたことで心配はいらない。大方いつも通り、幸村が三成に構ってそれを嫌がられているのだろう。最早二人は、西軍の騒音発生機として名物と化しているくらいであった。



「数日間まともに食事を摂られて無いではありませぬか!三成殿、どうか何か口にして下され!」
「うるさい、いらんっ!!」

三成を追いかけ回す幸村の手には真ん丸の握り飯。彼に食べてもらいたくて幸村自身が握ったものだが、少々大き過ぎるような。

「夏の疲れは秋口に出るものでござる!きちんと栄養を摂らねば倒れてしまいますぞ!!」
「私はそんなに軟弱では無い!!」

あまりに幸村がしつこいので、「いい加減にしろ!」と怒鳴ろうとした瞬間、三成の視界がぐらりと揺れた。そのまま彼は、崩れるようにその場に片膝を着いた。

「三成殿っ!!」

三成は貧血を起こしてしまったらしく、元より白い肌が青白くなってしまっている。幸村は持っていた巨大な握り飯をほっぽり出……すのは勿体無かったので二口で完食し、ぐったりしている三成をすぐさま抱き上げた。

思うように動かぬ体では大した抵抗もできず、三成はされるがままに布団に寝かされた。ぼんやりした頭で、不覚…とだけ思ったのだった。
そしてそのまま、三成は気を失うように眠ってしまった。



「…ん……。」

三成が目を覚ますと、ぐずぐずと泣きながら自分を覗き込んでいる幸村と目が合った。

「みづなりどのぉおお"っ!!」

三成の意識が戻ったと分かると、幸村は布団の上から彼の腹の辺りに縋り付いて大泣きを始めた。

「うわぁあああ、申し訳ありませぬうぅ〜っ!!某が…っ、某が無理に追い回したりしたから…っ!!」
「さ、真田…。」

目を覚ますなり大号泣されて、三成は戸惑うばかりだ。どうにか腹筋を使って起き上がり、自分に抱き付いて泣いている青年の背を撫でてやる。

「うっ、うぅ…っ。」
「貴様のせいでは無い。泣くな、鬱陶しい…。」
「で、でも…三成殿に何かあったらと思うと…。某は…!うわぁ〜んっ!!」

尚も泣き止む気配の無い幸村。彼の栗色の髪の毛を、三成はよしよしと撫でた。まるで、大きな子どもを相手にしている気分だった。
そこでふと三成は、布団の脇に何か果物が置かれていることに気付いた。

「真田、その葡萄は?」
「これは先ほど用意致しまして…。葡萄は、信州の名物の一つなのでございます。果物ならば食べやすいかと思ったので…。」

幸村は、三成の目の前に良く熟した葡萄を差し出した。形も良く皮にツヤのあるそれは、非常にうまそうだった。

「ふむ…。少し、もらえるか?」
「っ!!是非召し上がって下され!」

食べると言ってくれた三成に、幸村は涙でぐちょぐちょになった顔で笑った。
ただ今剥きまする!と張り切って、拙い手付きで葡萄の皮を剥いていく幸村。一つ、二つと剥いては三成の口元に持って行く。彼の薄い唇に指先が当たる度に、幸村は顔を真っ赤にしていた。

「…ん、悪く無い味だ。」

瑞々しくて甘酸っぱい葡萄の味にも、甲斐甲斐しい幸村の態度にも満足したようで三成は小さくほほ笑んだ。

「それは良かった!葡萄は今が旬でございますからな!」

幸村は大好きな三成のためにと、手を果汁だらけにして皮を剥き続けた。

三成は戯れに、紫色に染まり始めた幸村の指先をぺろりと舐めた。その瞳は悪戯っ子のような、妖艶な遊女のような。

「み、みみみみみ三成殿っ!?」

ぷしゅうと顔から湯気を出して、今度は幸村が倒れてしまったのだった。



…その一部始終をこっそりと見ていた吉継は、白い布の向こうで静かに笑った。
彼の笑顔と同じように、秋を感じさせる今日の高い空は、とても穏やかであった。

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