過去拍手13(BSR・幸三)


三成、吉継、幸村、佐助の四人は、夕涼みを兼ねささやかな七夕祭りをすることにした。最初に幸村からその提案を聞いたときには、三成は「何故私が」とそれをつっぱねた。だが、秀吉や半兵衛が風流な催しを好んでいたことを思い出し、是の答えを出した。そしてやるからにはと大きな笹(むしろ竹)を手配し、四人は早速飾りを作ったり短冊を用意したりと準備を始めたのだった。
 千代紙を丁寧に折り、織姫や彦星を作り上げた三成。それに対して、不器用な幸村の手には絡まった地引き網のような何かが。
「真田、何だそれは。」
「…あ、天の川でござる……。」
 言いながら幸村は、三成に見られないよう後ろ手にそれを隠してしまった。細かい作業は彼に向いていないようだ。
「大将は、お城のみんなに配った短冊回収して来てよ。」
 俯く主を見兼ねた佐助は、幸村に違う仕事を任せた。「承知した!」と幸村は、すぐさま部屋を飛び出して行った。

 笹の高いところの飾り付けは、輿に乗った吉継が担当している。正に適材適所といったところである。
「ふむ、『禄を上げて欲しい』か…。何とも味気無い願い事をする者がいやる。」
 一枚の短冊を見ながら、吉継はわざと溜め息を吐いて見せた。
「猿飛、貴様か…。」
 それを聞いた三成が、僅かに顔をしかめた。
「誰が何をお願いしたっていーでしょ!大将に何回頼んだって無理なんだもん、星に願うしかないじゃん!」
 …何とも不憫なことである。
「石田の旦那の『家康斬首』もかなり夢がないと思うけどね。」
 佐助は願い事とは裏腹に可愛いらしい星の飾りを作っている三成を、ちらりと横目で見た。
「短冊、回収して参りましたぞぉ!!」
 元気良く帰って来た幸村は、すぐに兵士や侍女達の願い事が書かれた短冊を笹にくくり付け始めた。『三成様がもっと食事をしますように』とか、『三成様がもっと自分自身を大切にして下さいますように』とかの何となく切実な願いを見て、幸村は三成が慕われていることを再確認し思わず表情が緩んだのだった。そして、
「ぅわ、大谷殿の願いは物騒でござるなぁ!」
 吉継の短冊を見て目を丸くしたのであった。『(三成以外の)人間が皆不幸になるように』。彼らしいと言えば彼らしいのだが、こんなことを願われてもお星様もどうすればいいのか。
「刑部、この短冊を一番上に吊るしてくれ。」
「相、分かった。」
 三成が差し出した藤色の短冊を、吉継は言われた通り一番高いところに結び付けた。彼はそれに書かれた内容を見て、密かに目を細めたのだった。



 「真田、もし私と年に一度しか会えぬと言われたらどうする?」
 満天の星空と綺麗に飾り付けられた笹を見上げながら、三成がぽつりと呟いた。
「耐えられませぬ。」
 それに即答した幸村は、天の川を指差しながら更に続ける。
「あんな川、泳いで渡って見せましょうぞ。」
「……織姫と彦星が引き離された経緯を貴様知っているのか。泳ぎ切れるような川ではないだろう。」
「いえ、某は貴殿のためなら必ず泳ぎ切り、会いに参りまする!」
 何の根拠もなく断言する幸村に、三成は小さく笑みを零した。
「……そうか。ならば、」

 待っている。

 そう言った三成の小さな小さな声は、隣りに寄り添う幸村にのみ届いた。
「途中で力尽きることは許さない。」
「御意に。」

 自分達は織女星と牽牛星ではないのだからこんな問答など無意味だ。だが、どんなに遠く離れ離れにされようとも、この男ならばきっと会いに来てくれるのだろう。
(…きっと、貴様だけは私を裏切らない。)
 三成は目を閉じて、隣りの男にもたれかかった。肩を抱くその体温が、とても心地良かった。



 「ところで、貴様は何か願い事をしたのか?」
「はい!『三成殿の願いが叶うように』と!」
「…ばっ、馬鹿か貴様はっ!!」

 先ほど吉継が吊るした三成の短冊だが…。それには、『あの者とずっと共に在れるように』と美しい文字で書いてあったとか。



 二人の願いは叶うであろう。星になど願わなくとも。


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