過去拍手J(BSR・佐+三+幸、母の日ネタ)


 「なんか、今日は騒々しいな……。」
 まだ朝日が昇り切らないような早朝、佐助は片目を擦りながら部屋から出て来た。外はまだ薄暗いのに、何やら慌てるような声や廊下を駆けて回っているような足音が絶え間なく聞こえて来る。徹夜をしていたり、夜中とも言える時間帯から起きて働いている家人は幾人もいるが、いつもならばこんなに朝早くから城全体がざわついていることはない。
(何か嫌な予感が……。)
 佐助は、騒々しさの発生源と思われる厨に向かった。大して長くもない道中、食器が盛大に割れる音が三回ほど聞こえた。



 「おはようございまーす、とね。」
「あら猿飛様。おはようございます。」
 佐助が厨にひょいと顔を出すと、顔なじみとなった年配の女中が笑顔で挨拶を返してくれた。
「猿飛…?」
 そして、奥から顔を覗かせたのは三成だった。
「あっれ?石田の旦那?どうしたのこんなところで。」
「貴様に教えてやる理由はない。」
 相変わらずの手厳しい返答に佐助は苦笑いを浮かべた。この忙しなさの原因は、ひょっとしたら自分の主が迷惑を掛けているせいではないか…そう思いこちらまで出向いてみたが、この城の現城主・三成が中心となって何かをしているのなら己の出る幕はない。ならば井戸場で洗濯でも手伝うか、と踵を返しかけた途端、
「三成殿ー!!」
 聞き慣れた主君の声が聞こえた。やはり、嫌な予感は当たるものだ。
「…大将……。」
 振り返った先にいた幸村は、何をどうしてそうなったのか分からないほど……顔も着物も煤で真っ黒だった。
「さ、佐助!?何故ここに!?」
「それはこっちの台詞だよっ!」
「真田、猿飛、喧しい。」
 険しい顔をして睨み付けて来る三成も、いつの間にやら……粉に塗れて真っ白になっていた。
「お前には関係のないことだ、出て行け!!」
「ちょ…っ、大将!煤が付くからっ!」
 幸村にぐいぐい押され、佐助は厨を追い出されてしまった。
「……何をするつもりなんだか。まぁ、取りあえず洗濯洗濯。」
(変なことしでかさないといいけど…。)
 妙に世話を焼きたくなる若武者二人を心配しながら、佐助は井戸へと向かった。



 佐助があの場を追い出され、二刻ほど経った頃であろうか。暗器の手入れをしていたところに、真っ黒な幸村と真っ白な三成がやって来た。
「ぅわ!二人ともどうしたのさ!朝のまんまじゃん!」
 今朝厨で見たままの成りの、頭から足先まで煤や粉で汚れた二人に佐助は目を丸くした。
「お風呂入って来たら?」
 佐助は懐から手拭いを取り出し、三成の頬に付いた粉を払ってやる。だが三成はやんわりとそれを拒んだ。
「それより先に貴様に渡したい物がある。」
「これでござる!」
 幸村が差し出したのは、いびつな形をしたみたらし団子。
「え?これは…?」
「今朝から、三成殿と作った団子だ!」
「……俺に?」
 佐助は瞳をぱちくりさせながら、目の前の団子と二人を交互に見る。
「貴様以外に、ここに誰がいると言う。」
 なかなか冷たい口振りの三成だったが、ふん、と鼻を鳴らしそっぽを向くのは彼の照れ隠しだと佐助はもう十二分に知っていた。
「海の向こうでは、今日は母親に感謝の気持ちを伝える日だと大友殿に教わったのだ!」
「そ、そうなんだ…。」
 にこにこと笑う幸村の顔が、何やら滲んで見える。
「二人とも、俺のために……っ。」
 一国一城の主たる幸村と三成が、自分のためにこんなに汚れてまで頑張ってくれたとは…。言葉にできぬ感情が佐助の心を支配した。
「俺様感激っ!!」
 俺はアンタらの母親じゃないよ!とか、ここから厨までの黒と白の足跡は結局俺が掃除すんの?とか、そんなことは今はどうでも良くなって、佐助は二人を思い切り抱き締めた。
「もう二人とも大好きっ!!アンタ達のために死ねるなら忍冥利に尽きるってもんだよ!!」
「むむっ!それは聞き捨てならぬぞ!!」
「そうだ。勝手に死ぬなど許さない。」
 佐助の瞳からとうとう熱い涙が零れた。



 どっぷりと蜜のかかった不格好な団子は、少々甘過ぎたが三成が点てた抹茶との相性は抜群だった。佐助は、それらを味わいながら大切に大切に食べたのだった。
 そして、
「海外の文化を学ぶのもいいけど、あんまりザビー教には近付いちゃダメだかんね。」
 と二人に釘を刺すのも忘れなかった。




 Happy mother's day!


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