過去拍手I(無双・清三)


 「近ごろ、随分と暖かくなって来たな。」
「ああ、過ごしやすい季節になった。」
 縁側で、のんびりと日光浴をしている清正と三成。庭木を見れば、新芽が顔を出して綺麗な緑色を見せている。正に「若葉色」、と言ったところか。柔らかな南風に乗って、どこからか桜の花びら飛んで来た。まるで一羽の蝶のようにひらひらと舞っているそれ。その花びらを目で追っていた三成の肩を、清正が突然引き寄せた。不意を突かれた三成は、難無く清正の腕に拘束されてしまったのだった。
「……どうした?」
 周りに家人でも居ようものなら「何をする!」と怒鳴りつけただろうが、今は清正と二人きり。いきなりの抱擁を甘んじて受けながら、三成は恋人を見上げた。
「…別に。」
「全然“別に”って顔をしていないぞ。」
 何だか拗ねているような、ちょっぴりむくれているような。そんな、おおよそ彼らしくもない表情を浮かべる清正。
「……春が来なきゃいいって思ってるだけだ。冬の方が良い。」
「清正は春が嫌いか。俺は、寒いよりは暖かい方がは良いと思うがな。」
 お前は寒がりだからな…と溜め息混じりに言う清正。彼がそのまま三成の白い首筋に顔を埋めると、高めの体温と吐息がこそばゆくて、三成は肩を竦めた。



 「……お前を温めるのは俺の仕事だ。」
 ぼそりと零された清正の言葉に、三成が小さく笑った。

 ―なんだ、こいつは春の陽気に嫉妬していたのか。

 いつも大人ぶっている彼の、何とも可愛らしい焼きもち。何だか三成は堪らない気持ちになって、今だ己の肩に乗ったままの清正の頭をそっと撫でた。
「このままずっと暖かい日が続けばいいと思うが、花冷えも十分に考えられるだろう。
そうしたら……。」
「そうしたら?」
 言いかけて止まってしまった三成に先を促しながら、ようやく清正が顔を上げた。二人の視線が数分振りにかち合う。
「…また、お前で暖を取っても良いか?」
 恥ずかしそうに顔を赤くして、三成は桜色の唇で清正の頬にそっと触れた。



 暖かな日だまりの中で子犬か子猫のように戯れ合う二人。その様子を、卯月の太陽と傍らに舞い落ちた桜の花びらだけが見ていた。
(春の麗らかな陽気は、人の態度まで軟化させるようだ。)



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