余所でやって下さい!A


 信州に戻って二月半後。大将は片付けねばならない案件をようやっと全て終わらせ、俺達は再び大坂へと向かった。



 大坂城に着くと大将は一目散に駆けて行った。その先には勿論愛しいあの人。
「三成殿っ!!」
「っ!?」
 がばっとお嬢に飛び付くその様は、正に犬そのもの。華奢なお嬢では当然その大型犬を受け止め切れずに、抱き付かれた勢いのまま後ろに倒れてしまう。危ない!と思うと同時に、背後から大谷の旦那がお嬢(と大将)を支えた。そして二人を引きはがす。
「…真田、三成に怪我をさせたらどうするつもりよ。慎め。」
「お、大谷殿!
三成殿も、申し訳のうござる。某、嬉しくてつい……。」
 えへへ、と大将ははにかむ。だが、
「長旅足労だったな。部屋で休んでいろ。用意はさせてある。」
 お嬢はそれだけ言うと、踵を返して奥へと引っ込んでしまった。以前の熱々ぶりからは想像できない対応。大将は衝撃を受けて石化してしまったが、大谷の旦那に促されてあてがわれた部屋へと通された。



 「三成殿は、もう俺のことなど好きではなくなってしまったのだろうか……。それとも、三月会わぬ間に他に好きな殿方が……?」
 大将は畳に接吻をしたままぶつくさ何やら言っている。効果音を付けるなら「ずーん」って感じの暗〜い雰囲気だ。
「……大将、顔潰れちゃうよ?」
 せっかく顔面偏差値だけは高いんだから。
「嫌でござるー、そんなの嫌でござる〜…。三成殿ぉ……。」
 あー、聞こえてないわぁ…。
「私が、何だと?」
 不意に聞こえた声。振り返ると、戸の前でお嬢が立っていた。
「お嬢!」
「三成殿!?」
 大将は勢い良く顔を上げるが、鼻の頭と頬には赤く畳の跡が。それを見てお嬢が吹き出した。
「何だそれは。」
「い、いやぁ、お恥ずかしい…っ!」
 恥ずかしそうに、慌てて頬をごしごしと擦る大将。でも、お嬢の笑顔が見れて嬉しそうだ。
「…幸村、猿飛、先ほどは悪かった。
久しく会って、何を言えば良いか…。そ、その、家人達の目もあったしな……。」
 折り目正しく正座をしながらも、ちょっともじもじしているお嬢。やだ可愛い☆
「そんな、某こそ無礼な真似をしてしまい申し訳無かった。どうか、お気になさらず。」
「幸村……。」
「三成殿……。」
 薄桃色の空気が、熱っぽく見詰め合う二人を包み始める。ああー…始まるー……。
 大将はその胸にぎゅっとお嬢を抱き締めた。
「お会いしとうございました…。お顔も拝見できず、声を聞くことも叶わぬ間、ずっと恋しく思っておりました……。」
「き、貴様何を…っ!気障ったらしい!やめろ虫酸が走るっ!!」
「事実でござる。文のやり取りだけでは慕情は募る一方で…。ああ、寂しゅうございました……。」
 俺様は空気と化してます。
「…このっ、恥ずかしい台詞をぬけぬけと!会いたかっただと!?寂しかっただと!?貴様だけがそう思っていたと思うなよ!私を長らく一人にして、心細くして!!それでいて謝罪も無いのか!!?」
「も、申し訳ありませぬ三成殿…!某はそんなつもりでは…っ!」
「許さん!真田幸村、今夜私を抱け!!拒否など認めないっ!!!」
「御意!!!」
「もう嫌だぁあ!!!」
 何なんだあの人達!我慢できなくなって、俺は忍術を使ってその場から離脱した(多分、残された二人は俺が消えたことには気付いていないだろう)。



 俺が死んだ目をして当てもなく城内をぶらついていると、仮面と包帯の上からでも分かるほどげっそりとした表情の大谷の旦那を見掛けた。その様子から、この二月半、こちらでも色々あったのだろうと簡単に推測できる。今度、酒にでも誘ってみようかなぁ…。分かち合えそうだ……。







 おまけ。


 翌日、大将は恍惚とした表情を浮かべながらむっふふむっふふと一日中にやついていた。……どうやらお嬢は、相当な床上手らしい。豊臣の英才教育、マジぱねぇ…。
 (つーか大将、アンタ「破廉恥」をどこに置いて来た。)




 ……俺様と大谷の旦那の気苦労は終わらないけど、この話はひとまずおしまい。



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