事と次第A


 その背に向かって、幸村は叫んだ。
「某は!そのようなことで貴殿を軽蔑など致しませぬ!!」
 三成がばっと振り返ると、幸村にぎゅっと抱き締められた。突然のことに三成は木刀を取り落としてしまい、カラン、と音を立てて石でできた床の上をそれは転がった。
「は、離せっ!!」
 そこまで大柄ではない幸村だったが、しなやかで逞しいその体に密着させられ、男女の体格差を思い知らされた三成は暴れる。しかし幸村は彼女を離さなかった。
「…どうかこのまま。
聞いて下され、三成殿。某が今ここにいるのは、貴殿の清い生き方に共鳴したからこそ。主君のため、己の信じるがために刀を振るう貴殿を美しいと思っているからでございます。また、そんな三成殿を失いたく無いと……。
何故今更、性別ごときで貴殿を蔑むことができましょうか!?この幸村!そんなに小さな男ではござらん!どこまでも三成殿と、三途の川さえ…地獄巡りさえ共に参りましょうぞ!!」
「…さ、なだ……。」
 三成は、震える手を恐る恐る幸村の背中に回した。
「ああ、こんなに美しい肌なのに傷がいっぱいでござる…。これこそ貴殿が武人である証し。何も気に病むことなどありませぬ。性別など関係ありませぬ、三成殿は立派な武士にございます。」
 幸村の優しい声が三成の鼓膜を揺らして全身に染み渡る。三成は、悲しくないのに涙が出そうだった。
「……貴様を信じる。決して私を裏切るな、真田幸村…っ!」
「御意!!」
 絞り出したような三成の切実な言葉に、幸村は彼女を掻き抱く腕に力を込めた。




 「ところで三成殿。」
 しばし全裸で抱き合っていた二人だったが、幸村がぱ、と三成を離した。そして次の瞬間、

 「申し訳のうございますー!!!」
 ガンガンガンガンガンガンガンガン!!

 幸村は激しく頭を打ち付け、猛烈な勢いで土下座を始めた。
「嫁入り前の女人の裸体に触れるとは、何たる狼藉っ!!破廉恥でござらぁああ!!!」
 ぽかんとしていた三成だったが、「秀吉様が作られた湯殿を壊す気か!」と的はずれなことを言い出して幸村の苛烈過ぎる土下座を止めた。
「そこで提案なのでござるが、某責任を取りたい所存!
どうか三成殿、某の…いや、俺の妻になっては下さらぬだろうか!?」
「………。」
 突然のプロポーズに、三成は目を真ん丸にする。自分を見詰める幸村の瞳は真剣そのものだ。
 三成はしばらく逡巡して、口を開いた。
「…良いだろう。私も貴様が初めて肌を晒した相手だ。道理だろうな。」


 まさかの O K 。


 幸村は再び三成を抱き締めた。
「必ず、そなたを幸せに。」
「……私は嘘が嫌いだ、分かっているな。」
 頬を桃色に染めて小さく笑った三成を、幸村は初めて見た。彼女が一層愛しくなって、思わずその瞼に唇を落とした。






 そんなこんなで、戦国最強っぽいカップルが誕生した。二人は関ヶ原で大暴れをして、「結婚します!」と高らかに宣言したそうな。三成に想いを寄せていた家康は、思いも寄らぬハートブロークンにたやすく撃破されてしまったとか(とどめに吉継が二人の祝言の招待状を置いて行った)。
 初めての共同作業が天下分け目の大戦、というのも如何なものかとは思うが、見事西軍が勝利を収め幸村達の前途は極めて明るそうであった。

 (東軍の悲惨な被害状況を見て「この二人が本気で夫婦喧嘩したら……日の本が三回くらい沈没しそう…。」という佐助の呟きは、焦土と化した関ヶ原に響く勝鬨と祝福の声にかき消され、誰の耳にも届かなかった。)




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