事と次第


所は大坂城。
 きょときょとと忙しなく辺りを見回して、何かを探している様子の幸村がいた。
「三成殿が見当たらぬ……。」
 彼が探しているのは己達の軍の総大将、石田三成であった。豊臣(石田)軍と武田(真田)軍が同盟を結んで随分と経ち、三成個人とも盟友として良好な関係を築けて来ていると思う。だが、あと一歩。どうしてもあと一歩彼の人物に踏み込むことができないと、幸村は思い悩んでいた。そうして暇を見付けては、積極的に三成と交流を図っていたのだった。
「三成様なら、湯浴みに行かれましたよ?」
 通りかかった石田軍の(三成に言わせれば豊臣の)兵士が、親切にも三成の居場所を教えてくれた。彼に礼を言うと、入浴の準備をして幸村も浴場へと向かった。
(男と男、裸の付き合い!これ以上に親睦を深める方法は無いでござる!)



 熱めを湯浴び、ふぅ、と息を吐く三成。汗や垢と一緒に疲労を流して、入浴とは心癒される一時である。しかしそんなときでも、三成は完全に気を抜いたりはしない。突如出入り口付近に感じた気配に、護身用に携帯していた木刀を構え威嚇をする。
「誰だ!?」
「真田幸村でござる!三成殿、無礼を承知で失礼致す!」
 湯煙の向こうから現れたのは幸村だった。
「来るなっ!!」
 三成は自分の体を見られる前にと鋭い太刀筋を以て幸村に襲いかかるが、寸でのところで躱された。それどころか、木刀の先端部を掴まれてしまう。
「み、三成殿!?一体何を……、っ!!!」
 三成の裸を見て、幸村は固まってしまった。
 雪のように白い肌、華奢だが美しいラインの脚、細くくびれた腰、小振りではあるが柔らかそうな胸の二つの膨らみ…。その体は、間違い無く女のものだった。
 そう、三成は女性であり、男装をして数多の戦場を駆け抜けて来たのであった。

 「三成殿は女子だったのでござるか!?」
「……見たのだな?」
 幸村は驚いて、その場に座り込んでしまう。
「いや、いやいやいや…っ!かかかか隠して下され!!」
 そして両手で己の目を塞ぐ。異性にまったく免疫の無い幸村は、可哀想なくらいうろたえている。状況も把握できないし破廉恥だしで、色々混乱してしまっているようだった(自分のそれさえ隠すことを忘れている)。
「真田、顔を上げろ!私の体を見ろ!!」
 だが三成は、幸村に近付くと自分の体を見せ付けた。顔を真っ赤にして「あ…」とか「ぅ…」とか情けない声を漏らす幸村に、なおも彼女は畳み掛ける。
「私が女で軽蔑したか?謀れたと憤るか?女の元に下って戦っていただなど、愚かしいと思ったか?凶王と呼ばれる石田三成が実は女だったなど、喜劇ようで可笑しいか……?」
 そして、尻餅をついたままの男の額に、木刀を突き付けた。
「貴様らの軍がこれからどうするかなど、好きにすれば良い。だが、私の性別を口外するな。頷かなければ……貴様の頭蓋をこの場で砕く。」
 幸村は首を激しく縦に振った。それを見て、三成は木刀を下ろし彼に背を向けた。美しい背中だったが、刀傷が幾筋か見て取れた。




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