訪れた危機A


ードッカァアアン!!

物凄い爆音が上田城を揺らした。

「敵襲か!?…あっちは…!お嬢っ!!」

佐助は即座に音がした方に向かい、発見した曲者に対して武器を構えた。が、その手裏剣を握った手はすぐに下ろされた。

「大谷の旦那…。」
「…猿か。」

そこにいたのは、大坂にいるはずの吉継だった。彼は相当に怒っているようで、背負っている闇色のオーラがとても恐ろしい。吉継は睨み付けるように佐助を一瞥すると、三成を横抱きにして輿に乗って飛んで行ってしまった(来るときに空けたと思われる大きな穴から)。佐助は何故このような事態になったのか察しがついていたから、何か言ったり、ましてや吉継達を止めたりなどはしなかった。
おそらく…いや、確実に、吉継は三成からの書状を見て(文字通り)飛んで来たのであろう。

『もう幸村には私が必要では無いようだ。近いうちにそちらに戻る。』

たった二行のそれ。だが、吉継を憤慨させるには充分な代物であった。

「大将、こりゃ…まずいよ……?」

二人はあっと言う間に見えなくなった。佐助はそちらの方向を見ながら、眉間にシワを寄せて頭を掻いた。

(ま、自業自得かな。俺様助けてやんなーい。)



「三成殿ぉおおぉおおおっ!!!」

幸村は帰還するや否や、三成がいないことに気付いて必死で彼女を探し始めた。

「どちらにおられるか!こちらでござるかぁあああ!!?」

気が動転して、厨で一つ一つ鍋の中身まで調べている有り様だが、まさかお釜の中に三成はおるまい。

「お嬢ならいないよ。大坂に帰った。」
「何とっ!?何故だ佐助ぇ!!」
「何故ってそんなの、アンタが放っとくからだろ。」
「そ、そんな……。俺は、そんなつもりでは…っ!」

幸村はがくりと膝を着いた。家来や侍女、城内の者達は皆、態度は横柄だけれども健気に働く三成の姿を見ていたから、項垂れる幸村を見詰める彼らの目は冷たいものであった。

「大切にしてたものをせっかくあげたってのに、それを粗末にされたんじゃあ取り返しにも来るだろうさ。お嬢は大事な大事な、豊臣のお姫さんなんだから。迎えに来た大谷の旦那は鬼の形相だったぜ。」
「俺はあの方を粗末になどっ!!」
「ふぅん?自分の仕事を肩代わりしてくれてる嫁さんを置いて他所に出歩いたり、決闘だなんだと放ったらかしにするのは大したことじゃないと。随分だね。」
「それは……。」

幸村に悪気が無かったのは佐助とて分かっていたが、今回ばかりは味方をしてやる気にはなれなかった。

(でも、二人が別れちゃうのは嫌かもなー…。)



一方、所変わって大坂では、石田軍…もとい豊臣軍の兵士達は喜びに湧いていた。

「俺達の三成様が帰って来たぞー!!」
「待ってました、女王様ー!!」
「馬っ鹿、女王様じゃなくて凶王様だろ!」
「いいんだよ、三成様は我らの女王様だ!!」

兵士達は三成が幸村と離縁すると思い込み、『みんなの三成様』が戻って来ると宴をも開かんばかりで浮き立っていたのだが、当人の三成と吉継だけはその雰囲気に同調できていなかったのだった。

「刑部、そんなに怖い顔をするな。」
「あい、すまぬな。醜く恐ろしいこの見目は、われの努力にて如何になるものでも無いゆえ。」
「…そういうことでは無い。」

吉継の放つ怒気と言えば凄まじく、三成でさえも彼を持て余していた。こんなに怒りを露わにする吉継は、始めて見る。

「三成よ、真田に裏切られたとは思わんのか?」
「………他所に女を作ったわけでは無いから、裏切られたとは思っていない。私が幸村の嫁に相応しくなかった、それだけだ。」
「そんなことがあるはずは無い!ぬしは真田家、上田のために懸命に尽くしたではないか!ぬしの噂は、遠くこの地まで届いておったわ!!三成に相応しくないのはあの小僧の方よ!!」
「刑部……。」

目を伏せてしまった三成を、吉継はそっと抱き寄せた。

「辛かったなぁ、三成よ……。」
「辛くは、無かった。だが少し……本当に少しだけ…寂しかった……。」

三成は吉継の黒い着物をぎゅっと握ると、小さく肩を震わせながら泣いた。
我が愛しの姫は、こんなに弱々しい生き物だったろうか。凛々しく美しい姫を変えてしまった幸村に対し、吉継は更なる怒りを覚えた。

「真田が、憎かろ?」

白銀の髪を撫でてやりながら吉継は何度もそう言ったが、三成は静かに首を振るだけだった。



その翌日のこと、今度は大坂城に爆音が響き渡ることになった。

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