訪れた危機


「上田の民にも三成殿を紹介したい!」と言う幸村に連れられ、三成が信州にやって来て間も無く一ヶ月ほどになる。出発を前にして吉継も行くの行かないのと一悶着あったのだが、大坂を留守にはできぬと彼は大坂城に留まることになった。娘を思う父親の心情である吉継は、心配で堪らずに三成に毎日手紙を書いて寄越している。
一応、『夫の実家に改めて伺う』ということで、最初は少々戸惑いを見せた三成だったが、大阪から伴って来た初芽の手助けもあり、滞在しているうちに随分と慣れて、上田に馴染んでいったのであった。
…否、実際『馴染む』どころの話では無い。黙ってもてなされているだけではいられない性分の三成は、幸村の領地でも辣腕を振るったのである。

「幸村、貴様は税の取り方が甘い。」
「いや、あまり民に無理を強いたくは無く……。」
「民を甘やかすことと民を愛することは違う。領主として、きちんと民を律することも必要だ。適正に年貢を徴収して、そこから適切な施しをし、的確な政をする。取るだけでも与えるだけでもいかん。国を治める上で、それが一番大切なことだ。」
「な、なるほど……。」

課税の仕方を改めたり新しい法令を作ったりと、三成は真田家の家老達の中に交ざり毎日政務に勤しんでいた。年嵩の者達に対しズバズバと意見を述べる姿は頼もしい以外の何物でも無かった。
また町民達の評判も良く、最初は「急に現れて、一体どんな姫様なのか」と三成を訝しがる者が多かったが、今では「幸村様の奥方様は、才色兼備の大変有能な方である」と連日話題になっているほどだ。彼女が町に降りたときの騒ぎと言ったら、それはそれは凄まじいものであった。
幸村は、自分の領地の政なのだからと三成や家老達の手伝いがしたかったのだが、残念ながら少々おつむが弱いために毎度邪魔者扱いされてしまうのだった。

「貴様は庭で槍でも振るっていろ。」
「はい!!」
「貴様の治める国は私の治める国と同然だ。任せておけ。」
「はいっ!!!」

…結局幸村本人も、頭を使うよりは体を動かす方が好きなので特別異存は無かったのであった。

「三成様素敵です…。」
「流石でござる、三成殿…。」

むしろ三成のイケメンっぷりに、初芽と共にうっとりしている始末だった。



妻は夫のためにと一生懸命働き、夫は己の良くできた妻を誇らしく思っていた。しかし最近は、二人で過ごす時間が少なっていた。

「あれ?お嬢、大将と一緒にいたんじゃ無かったっけ?」

さっきまで己の主といたはずの三成が一人で読書をしているのを見て、佐助は思わず彼女に声をかけた。

「私の知らない奴が訪ねて来たから下がった。」
「……知らない奴??それ、ひょっとして眼帯してて青い服着てなかった?」
「良く知っているな猿飛。確かにそんな風貌のいけ好かない男だった。」

三成は書物から顔を上げ、不思議そうに佐助を見た。

「………。」

「知ってる人のはずだけど」という言葉は、ついに佐助の口から出ることは無かった。確認のために庭を覗くと、己の主とその好敵手の伊達政宗が、ぎゃいぎゃい騒ぎながら剣を交えていたのだった。

ある日のこと、幸村は信玄に会いに甲州へと向かった。数日で帰るとは言っていたが、そこに三成は同行させていない。そして三成殿を頼む、と、佐助も置いて行った。

「頼むって…ねぇ……。」

テキパキと働く三成のサポートをしながら、佐助は溜め息を吐いた。

(可愛い嫁さんほっぽって、何してんだか……。)

三成を労うために茶菓子でも作ろうと思い、佐助は初芽を連れて厨へと足を向けた。



そんな日々が何日か続いた折に、事件が起こった。

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