二人の食卓


「三成殿、今日のハンバーグも絶品でございますな!その辺りのファミレスなど足元にも及ばぬ味でござる!」
「そうか、それは良かった。」

幸村と三成と、二人きりの食卓は毎日それなりに賑わっている。並ぶ料理も、会話も。三成はあまり出来合いの品には頼らず、手料理ばかりがテーブルに載る。それを幸村がいつも褒めるのだ。少し、大仰なくらいに。
今日の夕食のメニューは、三成特製の煮込みハンバーグ。幸村の分は大きめに作ってあり、三成の分は彼のものの半分ほどの大きさだった。ソースに旬のキノコがたっぷり入っていてとても美味しそうだ。ほかほかと立ち上る湯気の向こうで、幸村が口いっぱいにハンバーグを頬張っている。

「そんなに急いで食べるんじゃない。慌てなくても誰も取らん。」

余程美味しいのか、まるでハムスターのようになっている幸村を三成が嗜めた。
が、

(もぎゅもぎゅ言ってて可愛い…っ!お口の周りをソースで汚して、まだまだ子どもだな幸村は!)

心の中では悶えていたのであった。

「…んぐ、すみませぬ、三成殿…。」
「分かればいい。喉に詰めたりするなよ。」
「はい!」

いい返事をして、今度はゆっくりと良く噛みながら食事を再開させた幸村。だが、口元がソースだらけになっていることには気付いていないようだった。そんな彼を見兼ねたのか、三成は無言でティッシュを使って幸村の口元を拭ってやった。彼女のその行動に幸村は顔を赤くする。

「み、三成殿!子どもでは無いのですから、指摘して下されば某自分でできまするっ!!」
「黙れ。己で気付かん内は子どもだ。言ったら言ったで貴様は手で拭うだろう?お手てがばっちくなるからやめろ。」
「『お手て』とか!『ばっちい』とか!やめて下され!!」

恥ずかしいのか怒っているのか(おそらく両方であろう)、幸村は茹でダコのようになり顔から蒸気が出そうなほどだった。機嫌が悪くなった幸村は、無口になってしまい黙ってむぐむぐと口を動かしていた。そんな様子さえも、「拗ねている様も愛らしい…」と三成に思われていたのであったが。



幸村と三成の間には、誰が定めたかも分からないルールがあった。例えば、『風呂掃除は交代で』とか『洗濯物は三成が干すが、取り込むのは幸村』とか。基本的にはざっくりとした決まりで、共に暮らすうちに生まれたルールと思われる。
そのうちの一つ、『使用した食器は二人で片付ける』。本日もその決まりに従い、二人は食事の後片付けを一緒にしていた。三成が皿を洗い、幸村がそれを拭いて所定の場所に戻す。そんな、ちょっとした分業制が成り立っていた。この部屋にはビルトインタイプで食器洗い機も備え付けてあるのだが、二人きりでは洗い物も少ないためにそれはあまり日の目を見ないのであった。

柄の色が違うだけのお揃いのフォークをしまいながら、幸村は先日のクラスメイトの様子を何となく思い出し、そう言えば、と口を開いた。

「三成殿は、徳川殿をご存知と聞きましたが。」
「…徳川?」

名を聞いても今ひとつピンと来ないのか、三成は小さく首を傾げた。

「某の同級生なのでござるが、数年前に三成殿が家庭教師の先生だったと申しておられました。」

幸村の言葉に、家庭教師のアルバイトをしていたときのことを思い出してみる。

「徳川、か…。そう言われれば、そんな生徒がいたな。幸村と同い年ということで記憶しているが、私のことを呼び捨てにするしベタベタ身体に触って来るしで奴に良い印象は一切無いのだが…。」

まさか家康に、三成がセクハラされていたとは。

(徳川殿、明日しばくでござる!!)

幸村は強くそう思った。彼の背後に咆哮し猛る虎が見える気がするのだが、三成は気付いていないようだ。

「名は円安と言ったか?」
「いや、違いまする…。」
「では株安か?」

ネガティブな経済用語と混合されるクラスメイトに、幸村は同情する気持ちが1ミリも生まれなかった。

「いえ、円安の方がまだ近いでござるな。」
「そうか。貴様は円安とは友人なのか?」
「いいえ。ただクラスが同じなだけの知り合いでござるが。」

それどころか、たった今家康は幸村の中で『友人』から『知り合い』に格下げされたくらいであった。

「そんなことより幸村、今度の日曜日は暇か?秋物の洋服を買いに行きたいのだが付き合え。拒否は認めない。」

『暇か?』とお伺いを立てておきながら、後半は何とも高圧的だ。だが幸村はそんな三成の物言いを気にも留めず即座に頷いた。

「暇でござる!是非ご一緒させて下され!」

幸村の返事を聞いて三成は目を細めてほほ笑んだ。不意の笑顔に、幸村の胸はきゅんと高鳴ったのであった。



(三成殿とデートでござるっ!)
(幸村とショッピング…。ふふ、可愛いお洋服をたくさん買ってやろう…。)

二人は自室に戻ると、意気揚々と、かつニヤニヤしながら日曜に着て行く服を選び始めた。ついでに言うと今日はまだ水曜日なのであるが、一緒のお出かけが今から楽しみで仕方が無いようだ。

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