こんな感じA


幸村は、昼間のお詫びにと帰り道にあるケーキ屋で三成にレアチーズケーキを買った。三成はあまり甘い物を好んで食べないのだが、この店のケーキだけは別格であった。幸村は店員により丁寧に箱詰めされるチーズケーキを見ながら、上にちょこんと載ったラズベリーが可愛らしいなと思った。ついでに、自分用はシュークリーム。これが一番、ここで安価な品物なのであった。

購入したばかりのケーキを片手に、幸村は随分と上機嫌だった。

(きっと喜んで下さる…。)

三成の笑顔(これを見られる者は極々僅か)を想像して鼻歌でも歌い出しそうな幸村だったが、突然聞こえた短いクラクションの音で我に返った。音のした方を向くと、見覚えのある黒い軽自動車が停車していた。運転席のウィンドウが開くと、そこから三成が顔を出した。

「三成殿!!」

たった今想像していたばかりの愛しい女性の登場に、幸村は思わず破顔する。ちょうど三成も帰宅するところのようだ。
三成は昼に学校で見たときと服装が変わらず、正直彼女には庶民的な軽自動車よりも真っ赤なスポーツカーなどの方が似合っていた。しかし、どうせ二人しか乗らないのだからと燃費や利便性などを考えて国内のメーカーの軽に乗っているのであった。

「どうした幸村。機嫌が良いみたいだな。」

幸村が助手席に乗り込んでシートベルトを締めたのを確認すると、三成はアクセルを踏みながら「何か良いことでもあったのか?」と問いかけた。

「ケーキを買って参りました!三成殿のお好きな、パティスリー・マエダの!」
「そうか。後で代金をやらねばな。」
「いや、いりませぬ!これは某が三成殿に買ったものでござる!」
「…私に?」

目線は前を向いたまま、三成は怪訝そうな顔をした。

「昼間…三成殿がわざわざ弁当を届けに来て下さったのに、某はお礼の一言も申さず…。申し訳無うございました。それと、ありがとうございました!今日も三成殿の弁当は美味でござった!」
「なるほど、詫びと礼の品か。別にそんなこと構いはしないが、貴様の気持ちは有難く頂戴するとしよう。」

三成の返答に幸村は照れたように笑った。その様子を横目で見て、三成は心の中だけで悶絶していた。

(か、可愛い…っ!!)

クールなふりをしていて実は、三成は『甥』という生き物を溺愛しているのである。幸村ならば目に入れても痛くない。昔は一緒にお風呂に入ったり一緒に寝たりしたものだったが、いつしか嫌がられるようになり大層寂しい思いをしたのであった。

(ああ、口元がふにゃんってしてる…っ!まぁるいほっぺを真っ赤に染めて……なんて可愛いんだ幸村!私の甥は世界一可愛い!!)

「しかし、ケーキよりもこうして三成殿にお会いできたのが一等嬉しゅうございます!」
「…ふん、同じ家に住んでいるのに、か。」

(私を殺す気か幸村ぁああ!!!)

幸村のキラキラしたオーラにあてられ三成はノックアウト寸前だ。そんな萌え萌えもだもだした気持ちはおくびにも出さず、彼女は無表情のままアクセルを踏み付け家路を急いだのだった。



帰宅し、夕食の準備をする三成の後ろを、幸村はただちょろちょろしていた。

「三成殿、何かお手伝いすることはございませぬか?」
「いや、今はいい。それより貴様、宿題は終わったのか?」
「今日は簡単なプリント一枚でしたので、放課後に学校で済ませて参りました。」
「そうか。偉いな。」

姉弟のような…いや、むしろ親子に近いこの会話。二人はお互いと過ごす他愛ない時間を、とても大切に思っていた。



しかし。
かたや恋慕、かたや過剰な家族愛。互いに向けられた感情は、似て非なるもので交わってはいないのであった。

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