こんな感じ


「真田君。」

昼休みを告げるチャイムが鳴った直後のこと、幸村は背後からちょいちょいと肩を突つかれた。振り向くと、学級委員の生徒がいた。

「保護者の方が来てるよ。お姉さんかな?」

そう言って彼が指差した先……教室の後ろ側の出入り口を見ると、見慣れた銀髪が。なんと、三成が来ていたのだった。

「み、三成殿!?」

相変わらずの無表情で立っている三成とは対照的に、彼女の姿を確認するや否や幸村は大慌てだ。

「どうしてここに!?」
「弁当を忘れて行っただろう。」

赤いチェックの巾着袋に入った手製の弁当を、三成は幸村の目の前にずいっと差し出した。

「学校には来ないで下されとあれほど申し上げたではありませぬか!!」
「知るか。忘れ物をする貴様が悪い。」

今、二人は教室中の視線を独占していた。特に注目されていたのは三成だ。昼食休みを利用して職場を抜け出して来たのだろう、胸には「豊臣コーポレーション 石田」とネームプレートが付いていた。豊臣コーポレーションと言えば、知らぬ者はいない大企業である。その名札はまぁ、いいとして。問題は彼女の服装だった。オフホワイトのシャツを着て黒いタイトスカート(勿論ミニ)を穿き、そこから伸びる美しい脚は網タイツに包まれていた。そしてオプショナルは黒縁メガネ。三成は決してグラマーではないが、スリムな肢体は魅力に溢れていた。…つまりは、高校生にはセクシー過ぎる出で立ちであるのだ。
三成は少年少女の好奇の視線に眉一つ動かすことは無く、幸村に弁当を渡すと黒色のハイヒールを鳴らしながらさっさと立ち去ってしまった。



「Hey,真田幸村!」
三成が帰るとすぐに、幸村は級友達に囲まれた。

「あれお前の姉ちゃんか?」
「随分sexyなladyじゃねぇか。」

ガッと肩を掴んで来たのは長曾我部元親と伊達政宗の、眼帯コンビだった。ついでに、元親が左、政宗が右に眼帯をしている。

「AVに出て来る女教師か、社長秘書みたいなカッコしてたなぁ…。」

元親は、先ほどの三成を思い出して何故だかうっとりとしている。

「……三成殿の職業は、正しく社長秘書でござる。」

変な風に想像されて不愉快なのか、幸村は低い声でそう言った。

「真田、さっきの女性はまさか三成…石田三成じゃないか!?」

元親、政宗に遅れて、徳川家康が幸村に声をかけて来た。

「徳川殿、三成殿をご存知なのでございますか?」
「やっぱり三成か!三成はワシが中学生の頃の、家庭教師だったんだ!」

そう言えば、学生の頃に家庭教師のアルバイトをしていたと以前聞いたことがあった。仮にも先生に向かって呼び捨てとは何事かと、幸村は内心憤慨した。

「しかし世間は狭いものだなぁ…。いや、これは運命か!?あぁ三成…お前は相変わらず美しい……。」

頬を紅潮させて瞳をキラキラと輝かせている家康を放置し、政宗は幸村に詰め寄った。

「Family nameがアンタとは違うみたいだが、実際さっきのladyとはどんな関係なんだ?」
「………。」

正直、言いたく無かった。
むしろ幸村は、友人達に三成の存在を知られたく無かったのだった。

「…三成殿は某の母親の、妹君でござる……。」
「…あ?てこたぁアンタのauntか?って、おい、真田!?」

弁当だけを持って、幸村は政宗や家康達の間をすり抜け教室を出て行った。あんなところで三成の手作り弁当を広げられるものか。幸村は、中庭まで走って行った。

友人達が三成の存在を知れば、家に連れてけだの紹介しろだの言われるに決まっていた。そんなのは絶対に嫌だった。彼らを、これからどう躱して行けばいいだろうか。

「弁当を届けてもらったお礼を言うの…忘れてしまった……。」

ふと幸村は、礼の一言も言わぬまま三成を帰してしまったことを思い出した。ここから三成の職場まで、車で30分はかかる。往復で一時間以上ということは、彼女の昼休みは丸々潰れてしまったというわけだ。

「どうして俺は、あんなことしか言えなかったのだろう……。」

大きな木の根元に腰を降ろし、幸村は形の良いおにぎりを頬張った。中身は鮭で、塩味がちょうどいい。弁当箱の中は彩り豊かで、ほうれん草とコーンのソテー、アスパラのベーコン巻き、卵焼きにプチトマトと、一口カツまで入っていた。三成は、栄養のバランスを考えた上でいつも幸村の好物ばかりを気遣いと共に詰めてくれている。
暗い気分で食べても、叔母の作った弁当はおいしかった。



帰ったらまず謝って、それからお礼を言おう。大好きなあの人に。




- 22 -


[*前] | [次#]
ページ:





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -