この者と添い遂げる許可を!A


 三成たっての希望で、結婚式場は大坂城となった。真田家の居城がある上田の地より、こちらの方が遥かに都会的で利便性も高いために幸村もそれに異存はなかった。何より幸村は、「自分の全てであった主君達の遺した、この城で式を挙げたい」…そんな三成の言葉にしない気持ちを無下にするような男ではなかった。できるならば、秀吉や半兵衛にも三成の晴れ姿を見せたいと思っていた。



 三成の花嫁姿を見て、会場は歓声に包まれた(彼女の美しさに声が出ない者も多かったが)。鶴姫と慶次は「三成さん綺麗ですっ!」「恋は女を変えるねぇ!」と騒いで孫市に咎められ、元親と野郎どもは大声で幸村を冷やかした。義弘は酒を片手に早々と酔っ払っているし、政宗は何やら祝辞を述べているようなのだが海の向こうの言語では何を言っているのかさっぱりだ。そして幸村の師、信玄は「幸村、天晴れ!天晴れじゃああ!」と佐助に背中を擦られながら嬉し泣きをしている。一応、真田、石田両家の祝言ということで荘厳であって然るべき場なのだが……。幸村も三成も、この騒々しさが自分達には相応しいかと仲間達の祝福に笑顔で応えた。
 今日は天気も良くて助かった、と三成が青く輝く空を見上げると……天守の屋根に崇敬する主とその軍師が見えた。秀吉と、その肩に乗っている半兵衛は、柔らかくほほ笑みながらこちらを見下ろしていた。三成と目が合うと、半兵衛は五回、唇を動かした。

 き れ い だ よ 

 「あ、あぁ……っ!」
(涙で滲む、秀吉様と半兵衛様のお姿が!)
 涙を流す三成の肩を、幸村が優しく抱いた。再び見上げた先に、二人の姿はもう見えなかった。
(…確かにそこにいらっしゃった。秀吉様!半兵衛様!)



 幸せに包まれる新郎新婦を、つまらなそうに見ている者が一人だけいた。三成にずっと想いを寄せていた、家康である。山吹色の着物を纏った彼は、いつもの太陽のような笑顔はなりを潜めて、じとっと主役の二人を見詰めていた。
(…ずっとずっと、好きだったのに。今だって真田よりワシの方がお前を愛してる。ああ、綺麗だ三成。
……どうしてあそこにいるのが、ワシじゃないんだろう…。)
「やっぱり我慢できん!!」
 家康は震える拳を握り締めてそう叫ぶと、幸村達に向かって走り出した。
「徳川殿!?」
「三成はワシが幸せにするっ!!」
 止めようとする家臣達を押し退け、三成に手を伸ばす家康。彼の手が白い着物を掴むと同時に、「ガスッ!!」と鈍い音がした。
「今日ばかりはおとなしくしててくれ、家康。」
 地に倒れ伏す家康を見下ろして、官兵衛がやれやれと溜め息を吐いた。先ほどの音は、彼の鉄球が家康の後頭部にクリーンヒットした音であった(ちなみに家康は、これくらいで死ぬような男ではない)。
「暗、良うやった。ついでだ、そのまま徳川を埋めておけ。」
「何で小生がそこまでやらなきゃならないんだ!」



 頭だけを出して埋められた家康のすぐ近くには、見張りとして初芽が配置された。粗末に扱われる主を見て、忠勝は「これは仕方ない」と言わんばかりに小さな機械音を出した。
「Ha!お前も諦めの悪ぃこったな。」
「……カラスめ。」
「いい加減三成さんは諦めて下さい。何なら私が恋占いをして差し上げますから。」
「うぅ三成ぃ……。」
 友人知人に窘められながらも、家康は愛しい女性の名を呼ぶばかりであった。
「…そうだ!!」
 しかし突然、何かを閃いたらしく大声を出した。その声に、幸村は警戒の色を強めて三成を抱き締めた。吉継も数珠を構える。
「確か、三成には妹君がいたなぁ!その子をワシに…ぐはぁ!!」
 皆まで言わせるかと、初芽が家康の頭を踏み付けた。その場の全員が「グッジョブ!」と彼女を讃えた。



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