人気者の恋人(清三)


先日行われた人気投票の結果だが……三成がブッちぎりの一位だった。俺は奴よりだいぶ下にいたために、「三成の馬鹿より人望が無いとはな」と周囲に負け惜しみを言ってみたりしたのだが、内心穏やかでは無かった。
俺は別に、三成が一位で自分が八位だったことをひがんでいるわけでは無い。じゃあ何が気に食わないかと言えば、三成に票入れた奴全員だ。票の獲得率を見てみろ、三割超えって何だよ。三人に一人が三成を好きって言ってるわけだろう?恋人としてそんなの、喜べるはずが無かった。

あいつは、俺にだけ愛されてればいいんだよ!

イライラした気持ちを隠しもせず、俺は三成の部屋へと向かった。いささか乱暴に戸を開けると、予想通り三成は机に向かって筆を滑らせていた。本当に仕事の虫だなこいつは。

「清正か。随分な登場の仕方だな。」

こちらを向いた三成は、これまた予想通りの悪態を吐く。俺はそれに返事をせず、後ろ手に戸を閉めてからずかずか部屋に入り込むと強く三成を抱き締めた。

「き、清正!?」

奴が驚いて筆を取り落とした。上等そうな紙に黒い染みができていくのが見えたが、別段俺が気にすることでは無い。離せ、とか、ふざけるな、とか、三成は暴れたけど俺は離してなどやらなかった。無言を貫きただ抱きつくだけの俺を不審に思ったのか、抵抗する三成の手が止まった。
さっきまで腹立たしい気持ちでいたのに、こいつに触れて匂いを嗅いだらどうだろう、イライラするよりも、何だか寂しい気持ちになってしまった。

みんなこいつのことが欲しいんだ。

誰かに、取られてしまったらどうしよう。
そんな気持ちが俺を支配する。

今だ何も言わぬ俺に、三成は溜め息を一つこぼした。

「いやに大きな稚児がいるものだ。どうした?」

そう言う三成の声と、俺の背中を撫ぜる手があんまりに優しいものだから。俺は素直に、「お前がたくさんの奴に慕われてるのが気に入らないんだ」と言った。すると、ふ、と間近で三成が笑った。

「馬鹿だな、お前は。俺に人気があるということは、豊臣に従う者がそれだけ多いということだぞ。喜ばしいことではないか。」
「そういうことじゃねぇよ馬鹿!」

思わず声を荒げた俺に、三成は驚いたようで目を見開いた。



…嫉妬して、三成に当たって。俺、カッコ悪ぃな……。

「すまん三成、お前が悪いわけじゃないんだ「分かっている。」
「…え?」

謝ろうとする俺のセリフに、三成の声が重なる。

「俺だって、お前と同じだ。十人に一人がお前を好きだと言うのだろう?気分が良いはずが無いだろうが…。」
「そんなの、お前を好きだって言う奴の方が多い!」
「数は関係無いのだよ!」
「ある!!俺は心配なんだよ!」
「黙れ馬鹿、俺だってそうだ!」
「「俺の方が…っ!!」」

少しばかり言い合いをして、俺達ははたと顔を見合わせた。どっちの想いが上かと言い争っていることに気付き、二人して一気に顔が赤くなる。

「まぁ…なんだ……。俺達を支持してくれている者が多いということは…俺達の家の利益にも繋がるというわけで…。とにもかくにも、有難いことだな…。」
「そ、そうだな…。」

そういうことにしておこう。これ以上がなり合うのも不毛とお互いに悟り、そっぽを向きながら俺達は会話を終了させた。

「…仕事の邪魔して悪かったな。」

気恥ずかしい空気に耐えられず、俺は腰を上げてその場からの逃走を図った。しかし、着物の裾を引っ張られてしまい逃げるのに失敗した。振り返ると、耳まで真っ赤にした三成がいた。

「さ、さ…最近!朝夕は冷え込んで寒いのだ!貴様の稚児のような体温を有効利用してやろう!今夜、寝所に来い!!」

女王様よろしくなその発言は、三成の精一杯の甘え。さっきまで素直だったのに、と思わなくも無いが、こっちの方が間違い無く『らしい』。

「ああ、来てやるよ。馬鹿が、風邪引かないようにな。」

俺がくしゃっと髪を撫でると、三成はふにゃんと笑った。

…やっぱ、可愛い。みんな好きだって言うのも分かる。
けど、こいつは俺のもんだ。今夜は存分に可愛がってやるからな。



イライラもやもやした気持ちがウソのようだった。嫌だと思ったけど、あの人気投票のお陰で気持ちを確かめ合えた気がする。

頻繁にやられちゃ困るけど……たまにゃ、悪くないかな。

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