三成、頑張る

 三成は月に一度、決まった日にちに城下の薬屋を訪れていた。大病を患う吉継のために、専用に調合された薬をもらいに行っているのだった。わざわざ彼が行かずとも使いの者を出せば済むことであったが、親友が口にする薬を他人任せにできるかとずっと三成が足を運んでいた。

 今日は例の薬を受け取りに行く日なので、刀だけを持ち城を出ると後ろから大声で呼び止められた。
「おーい石田ぁ!!」
 気安く三成に声をかけられる人間など、この世に数人しかいない。この声の持ち主は、数少ない三成の友人、元親だ。三成は至極面倒臭そうに彼を見た。
「城下町に行くんだって?俺も連れてってくれよ!」
「断る。」
「カタいこと言うなよ。アンタの主が作り上げた大坂の町、俺も後学のために見学しておきたくてな。」
「………好きにしろ。」
 秀吉の名を引き合いに出せば、三成は存外すんなりと同行を許可してくれた。元親は、吉継の次に「三成の扱い」を心得ているのだった。
「よっしゃ。じゃあ、案内頼むな。」
「貴様、懇切丁寧な解説を私に望むのか?」
「……だよな。ま、適当についてくぜ!」
 元親が笑いながら三成の肩に腕を回すと、即座にその手をはたかれた。



 無事に薬師から薬を受け取った三成は、真っ直ぐには戻らず町の中を見て歩いていた。町内や人々に変わった様子がないか確認するためと、後ろを歩く元親のためだった。
「はぁ……。さっすが天下の台所だねぇ。」
「…ふん……。」
 大坂の町並みに、元親は感嘆の息を漏らした。崇拝する主君達が築いた町を褒められて、三成も満更ではない様子だった。
 三成はあまり身分を公にしていないために、町民達に顔を知られていない。張り物屋の若い娘が「綺麗なお侍様……。」と彼に見とれていたが、三成は全く気付いていないようだった。それを見て元親が「美男はイイねぇ。」と三成を軽く小突いたそのとき、女性の絹を裂くような声が聞こえたのだった。
「喧嘩だ、誰かーっ!!」
 男の怒鳴り声や娘の悲鳴、何かが派手に壊れたような音が聞こえる。それからの三成の行動は早かった。騒ぎの起こっている茶屋の前に走って行き、取っ組み合っている二人の男を鞘に仕舞われたままの刀で薙払った。地面に倒れた男の腹を踏み付け、今度は白刃の切っ先を突き付ける三成。彼の目にも留まらぬ速さに、周辺の人間は皆目を剥き息を飲むのだった。
「秀吉様の町を荒らすことは許さない。死ね。」
「待て待て待て!!」
 三成の刀が振り降ろされる直前に、元親が止めに入った。

 元親のお陰でその場は収められ、町民達はまた仕事に戻り、大坂の町は再び賑わい始めた。だが、三成だけがむすっとしている。
「石田、民間人には滅多に刀を向けるもんじゃねぇぜ?」
「この町を荒らす者は、死んで当然だ。」
「…あのなぁー……。」
 元親はがしがしと頭を掻いた。
「町が血みどろになったら、同じことだろ?ヒデヨシサマもハンベエサマも、そんなこと望んじゃいねぇだろうよ。」
 『みだりに人を斬ってはいけません』と言ったところで三成は理解できないので、元親は再び彼の主の名を出すことで三成の行いを咎めたのだった。
「……分かった。」
 まったく、三成は扱いにくいの扱いやすいのか。しかしながら、彼のこの真っ直ぐさを、元親は好ましいと思っていたのだった。
「分かりゃいい。さ、迷惑ついでに茶ぁ頂いて帰ろうぜ。」
 先ほどの茶屋で出された茶と饅頭を平らげ、元親と三成の二人は城へと帰って行った(元親は三成の分と自分の分、二人分の饅頭を食べた)。




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