霊能少年少女

 子どもの頃から、幸村には『見えてはいけないもの』が見えた。分かりやすく言えば、霊やらお化けやらが見えるということ。幼少の頃は、「あそこで女の人が見てる」とか見えているものをそのまま周囲に報告して大人には困った子だと言われていたが、高校生になった今は『見えているもの』を『見えていないもの』として過ごし、霊が見える弊害などなく極々普通に生活していた。

 幸村のクラスメイトに、直江兼続と言う女子生徒がいる。彼女は高校生にも関わらず、全国的に有名で学校の近くにある巨大な神社、上杉神社で巫女として働いていた。それの関係かは分からないが時々兼続の鞄や教科書の隙間から護符が見えていて、ちょっと気味悪がっている生徒もいた。本人は明るく真面目な性格をしているので、友達がいないということはなかったが。



 「おい、三成大丈夫か!?」
 昼休みのこと、突然加藤清正という男子生徒が大声を上げた。幸村が清正の方に目線をやると、彼の幼馴染み兼恋人の石田三成が真っ青な顔をして震えていた。
「急に…寒気がして……。」
 幸村には、三成の肩に子猫が乗っているのが見えた。恐らくは彼女に遊んでもらいたいのだろう、低級な動物霊が悪戯をしているようだ。
「顔色悪いぞ!?早く保健室!」
 清正が三成の手を取り、教室を出ようとしたそのとき、兼続が護符で三成の肩をぺしりと叩いた。するとどうだろう、三成にくっついていた子猫が弾かれたように離れ、どこかへと消えてしまったではないか。
「あ、あれ…?」
 そして三成の顔色が戻り、震えも止まった。
「…直江?今何したんだ?」
 一瞬にして回復を見せた彼女の様子を見て、清正が呆気に取られたように兼続に問うた。
「三成の具合が悪そうだったからな。私特製の、健康祈願の御札でおまじないをしたのだ。」
 兼続は左手に持った、素人には何て書いてあるのか分からない御札を二人に見せた。
「す、すげぇな…。」
「兼続、感謝する。」
「何、お安い御用だ。」
 礼を言う清正と三成に、兼続は笑顔を見せる。
 この一部始終を見ていたクラスメイト達は、「さすが上杉神社の名物巫女さん!」とか「今度俺にもおまじないしてくれよ!」とか、口々に兼続を褒めそやした。それに対し兼続は、大きな胸を張りながら「私より謙信公の方が何百倍も凄いぞ!」と上杉神社の神主を力強く讃えたのだった。ついでに、オカルトが苦手な一部の人間は、この目の前の出来事に激しく引いていた。

 幸村だけが、たった今起こった出来事をただの「おまじない」などではないと分かっていた。
(祓魔ができるのか……。)
 きっと、兼続も『そういう』体質なのだろうと思う。自分は、霊が見えはするもののそれ以上は何もできず、何もしない。だから幸村は、彼女が眩しく見えた。



 それから、幸村は兼続を目で追うようになってしまった。兼続はいつも護符を持ち歩き、悪さをする霊を祓ったり、あの世へ行けぬものの魂を成仏させていた。この世のものではないものが見えるのは、気持ちの良いものではないと思っていた幸村だったが、人知れずたくさんの生徒を守る彼女を見ていて、「自分にも何かできることはないだろうか」という思いが沸き上がって来た。





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