さくらんぼA

 真田石田は『二人一緒の仕事』しか受けないので、二人に与えられたスケジュールは全く同じ物(仕事に入る時間も上がる時間も、休憩時間までもが一緒)だ。よって、休日も等しく同じ日に与えられている。



 久しぶりに取れた、丸々一日仕事のない休み。今日の休日、二人は自宅でゆっくりするらしかった。

 「朝から風呂とは贅沢な気分だな。」
「某、頑張って早起き致しました!」
 幸村が少しだけ早く起きて、沸かした風呂。その湯気で煙る狭いバスルームに二人はいた。流石にそれはいかがなものか…と思ってしまうが、これは『水道代やガス代の節約のために入浴は一度で済ます』とずっと前に決めたことだった。今更この二人に疑問を挟む余地などない。



 ※ここから先は音声のみでお楽しみ下さい。

 「真田、そんなに引っ付くな。」
「狭いんだから仕方ないでござるよ。それに、三成殿に風邪を引かれては困り申す。某一人では舞台に立てませぬゆえ。」
「………馬鹿者が…。」
「馬鹿でいいので、貴殿を温める許可を下され。」
「…許可も何もあるか、今更。」
「そうでござったな。」
「そうだ。ずっと私の暖房器具でいろ。拒否など認めない。」
「御意に。」
 …ぱしゃん。



 「……長いぞ、沈黙が。チューか?チューなのか??」
 二人の世話を焼きにアパートを訪れていたマネージャーの猿飛佐助。浴室の会話が筒抜けの台所で、彼は朝食の準備をしていた。真田石田の漫才(貧乏BL漫才という新ジャンル)のネタを考えているのは佐助なので、二人の観察には余念がない。サラダ用の野菜(キャベツは芯まで)を刻みながら、佐助は幸村と三成の会話に耳をそばだてていた。
 …が。
 三成のいつもの凛とした低い声が甘く溶け始めて、短い悲鳴じみた喘ぎが聞こえて来たので、彼は常備している耳栓を素早く装着したのだった。朝から何をしているのかこいつらは。





 「猿飛……何なんだこれは……。」
「何なんだと言われてもねぇ、片倉さん。欲しがってた、真田石田のありのままの様子ですよ。俺様は言われた通りにしただけだぜ?」
 テレビ局内の会議室で映像のチェックをしているのは、プロデューサーの片倉小十郎と佐助の二人だった。全編の再生が終わったテープを、佐助が巻き戻す。
「こんな映像使えるかっ!!」
 小十郎が机をばん!と強く叩いた。
「知るかよ!二人の楽屋や部屋に隠しカメラ仕掛けんの、俺様良心が痛んだんだからねっ!!」



 某バラエティ番組が、『真田石田は本当に仲が良いのか?』という検証のために二人のプライベートを隠し撮りしたVTR。そこに制作者側が欲しい(テレビ的に面白い)映像は一切なく、ただ幸村と三成がいちゃいちゃべたべたちゅっちゅしてるだけの、おおよそスキャンダルにならない様子しか映っていなかった。
「これで分かってもらえたでしょ?真田石田のキャラは、作り物じゃありませんってことが。」
 ふふんと得意気に笑う佐助に、小十郎は深い溜め息を吐いた。
「ある意味衝撃的ではあるが……こんな映像、公共の電波にゃ乗せられねぇな……。」
「うん、それは俺様も激しく同意する。」

 真田石田の裏を探る企画は見事に倒れて、二人のこれ以上のプライベートの詮索は打ち切られることになった。



 しかし、この『ある意味衝撃的』な隠し撮りの映像は、佐助の手によって真田石田のライブDVDのディスク2に特典映像として収録されたのだった(その商品は変わった仕様で、真田ディスク(ディスク1)と石田ディスク(ディスク2)が別売りなのである。しかし、『真田ディスクを買うと石田ディスクが付いてくる!石田ディスクを買っても真田ディスクが付いてくる!』との謳い文句で売り出され、『別売り』とは名ばかりの完全なる二枚組DVDなのであった)。

 ……そのDVD(&ブルーレイ)がバカ売れしたのは言うまでもない。



 「先達て発売された我らのDVD、今週も売り上げチャート一位だそうですぞ!」
「それはいいが、あれ、サンプルも完成品も観ていないぞ?」
「佐助が観ない方がいいと申してましたが。」
「……嫌な予感しかしないのだが。」

 二人は何も知らないまま、DVDのセールスに佐助だけが笑いが止まらなかったとか。





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