さくらんぼ

 女性達からの熱い支持を受け、現在トップアイドル並の人気を博しているお笑いコンビ、真田石田。彼らはいつも一緒にいて、『コンビ愛』で片付けてしまうには少々仲が良過ぎる二人組だった。いつでもどこでも、まるで一対であることが当然かのように引っ付いている二人。

 そんな真田石田の、私生活を覗いてみた。



 楽屋でのこと。

 懇意にしている番組制作スタッフの大谷吉継に呼び出されていた三成が、たった今戻って来たところだった。
「お帰りなさいませ三成殿!」
 扉が開いた瞬間、三成に飛び付いた幸村。その様は飼い犬さながらであった。
「おや、それは?」
 三成の手には、オフホワイトの小さな紙袋が握られていた。幸村はそれを目敏く見付けた。
「刑部にもらった。」
「な…っ!こ、これはぁあああ!?」
 紙袋に印字された店名と、中身を見て幸村が大声を上げた。
「都内でも有名な洋菓子店、『Matsu's kitchen』の限定ワッフルではありませぬかぁあああ!!!」
 三成が持っていた品物は、購入するためには長時間並ばねばならず、毎日売り切れ必須の超人気ワッフルなのであった。それを見て瞳を輝かせる幸村(彼は、甘い物に目がないいわゆる『スイーツ系男子』なのである)。
「真田、欲しいか?」
 三成はワッフルを傍らに置くと控え室の椅子に座り、すらりとした長い足を組んで見せた。そして、挑発的な眼差しで幸村を見た。
「はい!!欲しいでござる!!」
 何とも、いい返事をする幸村。それに対し三成は、すっと右手を差し出し、たった二音を空気に乗せた。
「お手。」
 幸村ははい!と再びいい返事をして、すかさず三成の手の上に自らの右手を置いた。
「お代わり。」
 次は左手を載せる。
「顎。」
 その次は、三成の手にひょいと顎を載っけてにっこり笑った。
「よしいいだろう。くれてやる。」
 幸村の従順過ぎる行動に満足したのか、三成は例のワッフルを幸村に渡した。
「わーい!ありがとうございまする!!」
 おやつをもらえたわんこは、早速開封し喜々としてその生菓子を頬張った。
「んまいでござるぅ〜♪」
 口の周りを生クリームだらけにし、垂らしたラズベリーソースで手をべたべたにしながら幸村は幸せそうにほほ笑んだ。
「そうか。では私も少しもらおう。」
 そう言うと、三成は幸村の頬から指先でクリームを拭い、それをぺろりと舐めた。口の中に広がる甘さは、クリーミーなのにさっぱりとした、上品な味わいであった。このワッフルが大ヒットしているのも頷ける。
「三成殿、これは貴殿が頂いて来たものなのですからもっと召し上がって下され!」
 そう言うと幸村は、半分以上を食べてぐずぐずになったワッフルを三成に差し出した。
「いらん。貴様を見ているだけで満腹になる。」
 三成は無表情のまま、今度は口許に付いていた赤いソースを拭ってやった。
「そんなことより、間もなく出番だ。食べ終わったらすぐに顔と手を洗って来い。」
「ふぁい!」
 幸村は最後の一口を飲み込むと、生クリームがたっぷり付いた唇で三成の頬にキスをした。
「真田!何をする!!」
 自分の顔まで汚れてしまい憤慨する三成に、幸村はニカッと笑って見せた。
「一緒に顔を洗いに参りましょう!ついでに手も!」
 ソースとクリームが付着し汚れている手で三成の手を取り、幸村はトイレへと駆けて行った。



 …真田石田は、どこまでも一緒に行動したいらしい。




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