男の嫉妬は…A

 「大体、何しに来たんだてめぇは!!」
「秀吉様へのご挨拶と、さきちゃんに会いに来たんじゃい!!せやからお前に用はないねん、早よどっか行け!いちーち絡んで来んなや!!」
 二人の言い争いは、まるで子どもの喧嘩だった。放っておいても構わないと思っていたが、あまりの喧しさに三成が口を開いた。
「喧嘩をするなら外でやれ。」
「……ちっ。」
「ごめんなぁ、さきちゃん。」
 三成の一声は絶大で、二人は途端に言い争うのをやめた。
「清正は、一体何の用でここに来たんだ?まさか行長と口喧嘩をしに来た訳ではあるまい?」
 三成は、やれやれといった様子で清正を見た。
「あ、いや……俺は……。」
 『行長と三成を二人きりにしておきたくなかったから』がここへ来た理由なので、三成の言葉は半分正解であった。清正は思わずどもってしまう。
「図星やでさきちゃん!こいつ、俺が何しても結局気に入らんねやから!顔見たら絡むてゴロツキと何や変わらんわ!」
「うるせぇ!!お前が三成に変なことしてないか確かめに来ただけだ!」
「俺はお虎とちゃうて、誰がそんな下品な真似するかい!」
「何だと!?」
「何やと!?」
 またしても、火花を散らしながら睨み合う両者。清正は精悍な顔つきをしているからこその迫力で、視線で人が殺せそうなほど恐ろしい目をしていた。行長もいつもの人好きのする笑顔はなりを潜めて、白刃を連想させるような鋭い眼光を放っていた。…並の人間ならばこの場にいるだけで震え上がっていることだろう。
「さきちゃん、こんな野蛮人はやめて、俺と付き合わん?」
「こっの野郎!!三成に手ぇ出すな!!」
「三成はモテモテだねぇ。あ、お茶のお代わりもらえるかい?」
 二人の剣幕を余所に、吉継だけがのほほんと茶を飲んでいた。



 次から次へと汚い言葉が飛び出し、二人は一向に黙る気配がない。そればかりか、今にも手が出そうな雰囲気だ。三成は堪忍袋の緒が切れる一歩手前だった。
「……いい加減にしないと、二人とも嫌いになるぞ…。」
 三成の地を這うような低い声に、清正も行長もぴたりと動きを止めた。そして、すいませんでした!!と二人揃って土下座をしたのだった。
「……ふん、分かればいい。清正もそこへ座れ。特別に茶を淹れてやろう。」
 ちょっと奇妙な空気の中、茶会が再開された。清正達が言い争ってる間も、吉継は茶を飲むのと菓子を食べる手を休めなかった。気付けば、茶菓子は底をつく寸前であった。実は吉継は、昔から豊臣家では『痩せの大食い』と有名だったりした。
「なぁさきちゃん。今の恋人はお虎やけど、正直な話、さきちゃんは具体的にはどんな人が好きなん?」
 淹れ直してもらった熱い茶を飲みながら、行長が言った。
「それは僕も気になるなぁ。」
「秀吉様って言うのはナシだからな。俺達じゃあ越えられない。」
 その質問に、吉継も清正も興味深々だ。
「そうだな……。」
 顎に手を当てて、三成は何やら考え込む素振りを見せた。
「…吉継のように、思慮深くて器が大きい人物がいい。」
「「えぇ!?」」
 三成の返答に、行長・清正の驚く声が重なった。
「ちょっと三成、僕を巻き込むのはやめてよ。」
 吉継は苦笑いを浮かべて正面に座る三成を見た。
「マジかよ…っ!」
「紀っちゃんは思わぬ伏兵やなぁ……。」
 二人はがっくりとうなだれながらも、吉継に恨めしい視線を送るのを忘れなかった。

 誰にも気付かれないように溜め息を吐いてから、吉継は
(男の嫉妬は醜いねぇ……。)
 と心の中でひっそりと毒づいたのだった。






 おまけ。

 「三成、お代わり。」
「まだ飲むのか?随分と喉が渇いていたのだな…。」
「飲まなきゃやってられないよ。ところで、この焼き菓子もうないの?おいしいね。」

 …たくさん食べたり飲んだりすることは、騒がしい友人達に囲まれた吉継の、手近なストレス解消法なのかも知れなかった。





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