六月の花嫁

 職場からの帰り道、三成がいつも通っているアーケードがある。屋根があるので雨の日でも濡れないし、店の数も多いので買い物に便利だからであった。
 その商店街の一角に店舗を構えるジュエリーショップ。店の入口に貼り出されたポスターには、「サマーブライダルフェア」の文字が大きく書かれていた。ふとそれが目に入った三成は、左の薬指に嵌められた指輪を眺め、自分の年下の恋人のことを思い出した。このピンクゴールドの指輪は、以前彼がプレゼントしてくれた物だった。「歯科助手」という仕事が仕事なだけに、ずっと身に着けている訳にはいかなかったが、三成はこれをとても大切にしていた。



 三成と清正は半分同棲してるようなものだったが、清正は時々実家に帰る。今朝家で会ったばかりだが、彼のことを考えたら何となく恋しくなってしまったので、三成は清正に電話をかけることにした。携帯電話の着信履歴の一番上の番号を選び、発信すると、彼はすぐに出た。
『もしもし三成?』
「清正、今どこにいる?」
 清正の声。受話器越しでも、何故だか安心する低音。
『今は実家。明後日提出のレポート書くのに資料がいるから。』
「そ、そうか……。」
 家に帰ってもお前はいないのだな。
 大抵三成のアパートにいる清正。珍しく「会いたい」だなんて思ったときに会えなくて、不覚にも三成は寂しくなってしまった。
「……そっちにいるなら別にいい。特別用事がある訳ではないのだ。じゃあな。」
『待てよ。パソコン占拠していいんだったら、今からお前んち行く。』
「い、いや俺は別に!お前に会いたいだなんて思ってないのだよっ!!」
 今から行く、だなんて想定外の返答に、三成はつい可愛くないことを言ってしまった。なのに清正は、
『俺が会いたいんだ。』
 と笑って言った。
『会いたいって思って、電話かけようと携帯取ったらお前からかかって来たんだよ。やっぱ俺達運命なんじゃないかって思った。』
「な、ななな、何を、馬鹿な…っ!」
『はは、まぁ待ってろよ。一時間後くらいには着くから。バイク飛ばしてく。』
「事故るなよ、馬鹿!」
 三成は真っ赤な顔をして乱暴に電話を切った。
(あいつは、こんなに恥ずかしい奴だったか…?)
 三成は昔を思い出したが、皮肉屋でリアリストな彼が思い浮かぶばかりだった。
 でも、あの時はあんな別れ方をしたのだ。
(結局、喧嘩したままあの戦が始まったからな。そして俺は家康に負けて……。)
 重罪人となり首を刎ねられて死んだ。

 清正は四百年前、心底後悔したのだ。今度は、決して三成を離しはしないと。大切に大切にして、一生守ると決めていた。


 (…俺は本当に愛されている。)


 清正の大きな愛情は、心地が良くて、ちょっとこそばゆかった。

 三成は、コンビニに寄って彼の好きなプリン(と、自分用の杏仁豆腐)を買って帰ったのだった。俺も大概だな、と内心自分を嘲笑しながら。




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