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ひとり占め(清三)
…いい加減うっとうしい。
それは、今日の垂れ込んだ曇り空でも、そんな今にも泣き出しそうな空の下、庭でアメンボとおたまじゃくしを見付けて騒いでいる正則でもない。
「三成。」
出た!
「おい、無視すんなよ。」
横を通り過ぎようとした俺の腕を、清正が掴む。
…最近俺が疎ましく思っているのはこの男である。何故かと言うと―…
「さっきまでどこに行ってたんだよ?左近に聞いても知らねぇって言うし。城下に行くなら言えよ馬鹿。ついて行ってやるから。なぁ、こっち向けって。」
あの天下を分ける大戦の後、清正はずっとこの調子である。やたらと干渉してきて、俺の行動を逐一把握したがるのだ。確かに俺達は、終戦後にお節介な家臣のお陰で所謂恋仲…になったのだが。しかしこれはやり過ぎだろう……。
「…清正、ちょっと来い。」
俺は清正を連れて近くの客間へと入った。
「近頃おかしいぞ、お前。」
お互い向き合うように座ると、俺は単刀直入に切り出した。
「何がだよ?」
奴は何が言いたいのか、といったふうに俺を見る。
「最近やたらに干渉してくるではないか。いちいち見張られていたら適わん。」
大体、
「以前は俺の行動などに関心は無かっただろう?こういった仲になってから手の平を反したように…。一体何のつもりなのだ。」
俺は眉間に皺を寄せながら目の前の清正を見た。
「…それは……。」
奴にしては歯切れが悪いので、それは?と鸚鵡返しにして先を促す。
「前はこんなことをする資格が無かったから、出来なかっただけだ。」
「…何?」
「俺は、前からお前のことは何でも知ってたかったんだよ。けど、そんなこと言える立場でも無かっただろ?で、素直にあれこれ言えなかったせいで、結局あんなことになって…。」
清正が真っ直ぐに俺を見つめる。
「もうあんな思いをするのはごめんだ。俺は、ずっとお前の側にいたい。」
「…きよ、まさ……。」
清正のまさかの告白に、何も言えなくなってしまう。
「本当は首に縄でも付けておきたいくらいだ。」
そう言って奴は俺の首筋に触れた。―瞬間、ゾクッとした。それはただの悪寒ではなく歓喜の―……。
俺の中にこんな感情があるとは思わなかった。こいつの執着が心地良い、なんてどうかしているだろうか?
「一方的に繋がれるのは気に入らんな。互いの首を鎖で繋ぐのはどうだ?二度と離れられないように。」
俺がにぃ、と笑うと、
「……最高だな。」
清正も笑った。決して実現なんかはしないだろう案だけど。
しかし、今俺を抱き締めている清正の腕は、どんな縄や鎖より拘束力があると思う。俺だって、もう離れるつもりは無いのだよ。
―終―
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