恋文、待ツ(清三?)


 「熱心なこったな。」
 文机に向かい紙の上に筆を走らせていると、不意に後ろから聞き慣れた声がした。振り返ると部屋の柱にもたれながら清正がこちらを見ていた。
「利家様に頼まれていた例の書簡か?」
「いや。それならば昨日のうちに仕上げて使いの者に渡してある。」
 机から向き直ることも手を止めることもせず返事をする。背後で、奴が近寄って来た気配がした。
「真田んとこの次男坊へか。」
「…覗き見とは悪趣味だな。」
「火急の用事でもないみてぇだし、重要機密なんか書いてないだろ。」
「……貴様。」
 他人の手紙の内容を堂々と覗き見ておいてなんて言い草だろうか。私的ものだからこそ見られたら余計に不愉快だったため、俺は筆を止めて清正を下から睨み付けた。
「お前の数少ないお友達だもんな、大切にしろよ?紀兄ぃと、その真田と…ああ、あと上杉の無駄にうるさいのと。そんなもんだろ?お前の友人は。」
 人の邪魔をしながら何がおかしいのか、にやにやと笑いながら清正が言う。と言うか兼続は酷い言われようだな。否定はせんが。


 「先刻から何なのだ、用が無いのなら出て行け馬鹿。俺は幸村に文を書かねばならぬのだ。あ奴はお前等と違って素直で可愛いからな、弟のように愛でてやりたくなるのだよ。」
「それじゃ何か、俺と正則は可愛げが無いと。」
「お前は一度でも俺を年長者として敬ったことがあったか?寝言は寝所で言え。」
 ふん、と顔を背けて再び筆を取ろうとした。
 が、清正の腕の中に捕まりそれはかなわなかった。その拍子に筆が転がり落ち畳を汚した。


 「おい、何の真似…」
「俺もお前からの手紙が欲しい。」
 先程からのこいつの行動が理解出来ず、いい加減怒鳴ってやろうかと思ったら想像もしていなかった言葉がぽつりと降って来た。



 …なんだ。俺は小さく息を吐いた。

「やきもちか、お虎。」
「な…っ、にを…っ!」
 わざと幼名で呼び、短く切り揃えられた鈍色の髪を撫でてやると、目の前の男は顔を真っ赤にして面白いくらいに動揺していた。
「肥後に戻ったときに文を寄越せ。返事くらいなら書いてやらんこともない。」
「……ああ。」
 清正が俺に抱き付いたまま頷く。自分より遥かに体躯が良くて、悔しいが内面だってある程度はしっかりしているこいつをこうしてあやすだなんて、なんだか気分が良かった。だが。
「床の墨、きれいにして帰れよ。」
 それとこれとは話が違う。汚れたのはお前のせいだからな。



 その代わり。まぁ、もう少しくらいならこうしてこの腕に仕舞い込まれてやっててもいいだろう。



    −終−

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