冬至(清三)


 「三成、見て見て!」
 ねねが両手にいっぱい柚子を抱えて、嬉しそうにほほ笑んでいる。
「随分たくさんの柚子ですね。どうしたんですか?」
「頂いたんだよ。たっくさんお風呂に浮かべようね!」
 部屋中に香る柚子の良い香りに、ふと三成は今日が何の日かを思い出した。
「そう言えば、今日は冬至でしたね。」
「一年で一番日が落ちるのが早い日だから、お日様を有効活用しないとね!お布団干そうかな〜。」
 天下人の妻とは思えぬ忙しなさで廊下を駆けて行くねねの背中を、三成は苦笑いを浮かべながら見送った。



 まだ夕方四時を過ぎたばかりなのに日が陰り、手元が暗くなってきた。今日もずっと文机に向かって執務に励んでいた三成だったが、もう灯を付けねば書状の確認は難しいであろう。
「おい馬鹿。」
 そこへ、随分な挨拶で入って来たのは清正だった。
「何の用だ馬鹿。」
 …三成も負けてはいなかったが。
「そろそろ仕事切り上げろよ。この間、秀吉様がおっしゃられたこと忘れた訳じゃねぇよな?」
「ああ、分かっている。今日はここまでとしよう。」



 「秀吉様がおっしゃられたこと」とは、一年で最も日が短い今日は、灯が必要なほど暗くなったらそれ以降は仕事をやめる、といった内容であった。勿論炊事などの必要最低限のことはやらない訳にはいかないが、家来達を早く休ませるための気遣いと、無駄に燃料を消費させないための一種のエコ活動がそれには含まれていた。



 三成は積み上がった資料を整頓し、筆や硯を片付けたはいいものの、空いた時間をどう過ごせばいいか分からなかった。何がしたいのか、まだ部屋の入口付近にとどまっている清正を取りあえず一瞥すると。
「今日は、一年で一番昼間が短い日なんだろ?ってことはだ。一年で一番夜が長い日でもあるよな。せっかくの秀吉様のお心遣い、無下にはできないだろ?」
 清正はにやりと笑い、三成をその腕にがっちりと拘束した。目の前の男が自分をどうしたいのか悟った三成は、じたばたともがいてみるが意味を成さない。
「早く休め、とのお気遣いだろう馬鹿!」
「褥に入るってんなら同じ意味だ。」
 そのまま、清正は自分の部屋へと三成を拉致。恐らく、既に布団が用意してあるのだろう。





 今宵は長い。まぁ今日ぐらいは流されてやってもいいかと、三成は逞しい背中にそっと腕を回した。




   ―終わり―


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