11/11(清三)


 ぽりぽり、ぽりぽり。


 三成が小さな口を動かしながら、軽快な音を立てて何かを食べている。随分と細い棒状の食べ物で、清正が初めて目にするものだった。
「三成、何食ってんだ?」
「行長がくれた南蛮の菓子だ。細く仕上げた焼き菓子に“ちょこれいと”なるものがかけてあるらしい。正式名称は行長も知らないそうだ。」

 ぽりぽり。

 その菓子を余程気に入っているのか、三成は清正と話しながらも食べるのを止めない。
「ふぅん、何か珍しそうなもんだな。」
「欲しいのなら分けてやろう。ほれ。」
 三成は例の菓子を箱から一本取り出し清正に差し出した。
「ああ、くれんのか。そりゃどーも……ん?」
 渡されたそれをまじまじ見ると、端の部分には“ちょこれいと”が付いていなかった。どうやら食べるときに手を汚さぬように、との配慮らしかった。清正はそれにいたく感心した様子で、しばらく「へぇ…」とか「はぁ…」とか感嘆詞ばかりを発していた。

 ひとしきり観察した後、ようやく清正は菓子を口にした。

 ぽりぽり。

 「こりゃ、日ノ本の菓子には無い味だな。甘さの質が全然違うと言うか…。でもまぁいけるな。
行長もたまにはイイ物持って来るじゃねーか。」
 此処にいない相手に少しの嫌味。…相変わらず清正と行長は仲が悪いようだった。



 「行長は正式な食べ方も教えてくれたぞ。」
「これの食い方に作法なんかあんのかよ?」
 三成の手にある棒状の菓子を見て清正が言う。持ち手(?)があるのだから、つまんで食べる以外に何があると言うのか。尤もな意見である。
「作法と言うか、な…。実践してみるか。
ほら、清正。」
 ずいっと突き付けられた先ほどの菓子(“ちょこれいと”の付いている方を向けられている)。清正は三成に視線で促されるままそれを咥えた。そして、あろうことかそれの反対側を三成が咥えたのだった。
「お、おいっ!!」
 うろたえる清正をよそに三成は説明を開始した。
「こうして端から互いに食べ進んで行き、より長い距離を食べた方が勝ちらしい。」
「何だそりゃ!?」
「知らぬ。そう教わったのだ。」
 お互い、器用にも先の状態のまま喋っているので、口の中では小麦粉でできた菓子が当然ふにゃふにゃになっている。それに耐えられなくなった三成がぽきりと折ってしまった。

 「碌な食い方じゃねーなこれ……。」
「何度か行長と勝負したが、奴の顔が必要以上に近付いて来るのが我慢できなくて、つい離れてしまってな…。とうとう一度も勝てなかった。」

 ぽりぽり。

 何でも無いように言う三成を見て、清正は複雑そうな顔だ。
「………。
…なぁ三成、俺とも勝負しようぜ。」
「いいだろう、お前には負けん!」
 乗り気で細長い菓子を咥える三成。その反対側を、清正も食む。

 ぽりぽり、ぽりぽり。

 二人共退かず、唇が触れ合うまであと数ミリ。そこで少し、三成が躊躇ったが清正は止まらない。唇同士が軽く触れて、三成の桃色をしたそれをぺろっと舐めてから離れる清正。
「き…っ、貴様…っ!」
「俺の勝ちだな。」
 真っ赤になる三成を尻目に、ご馳走さん、と清正はにやりと笑った。
「もう一回だ!!」
 負けず嫌いな三成は、躍起になってもう一本菓子を取り出した。それをひょいと取り上げる清正はにやにや笑ったままである。
「何度でも。」




 ぽりぽり、ぽりぽり。

 現在「ポッキーゲーム」と呼ばれているそれに、二人は菓子の箱が空になるまで興じていたとか……。



 「今度は“ちょこれいと”の付いている方が食べたい。」
「はいはい。」




  ―おしまい☆―



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