離れられない、離れたくないA


 三成の私室の前まで来て、清正はこの戸を開けるか開けないか迷っていた。様子は見たいが、今彼が眠っているのならそっとしておくべきだろう。

 「清正。」
 襖に手を掛けたまま動かない清正に、後ろからねねが声をかけた。彼女の手には、盆に載せられた小振りの土鍋と匙があった。
「おねね様!」
「ちょうど良かった。これ、三成にお願い。お粥作って来たんだ。あの子今朝から何も食べてないから…。」
「え…っ、おねね様!?」
 盆を清正に押し付けると、ねねは元来た廊下を軽やかに走って行った。
「頼んだよ〜!」

 清正は参ったな…と思いつつも、三成の部屋に入る格好の口実が出来たと密やかに喜んだ。




 「三成、入るぞ。」
 清正はわざと少し乱暴に襖を開けた。
 布団の中にいた三成は気怠そうな動きで首だけを戸の方に向け、清正を見遣った。
「……何の用だ。」
「馬鹿が体調崩したって聞いてな。これはおねね様が作って下さった粥だ。食え。」
 清正は三成の枕元まで近付くと、粥を掬って食べさせようとした。が、
「いらぬ。俺は休みたいのだ、出て行け。」
 三成は欲しく無いと断り、冷たく退室を促した。
「お前、せっかくおねね様が心配して…っ!」
「それが惜しいのならば貴様が食えばいい。俺はいらん。」
 三成は体ごと壁の方を向いてしまった。
「大体貴様はいつまで経ってもおねね様おねね様と。未だ乳離れの出来ぬ子供に用は無い。目障りだ、さっさと消えろ。」
「…な……っ!」
 自分とて素直な物言いは出来なかったが、朝から三成に会いたくて。具合が悪いと聞いて、心配して来たのに。清正は恋人から浴びせられた言葉が信じられなかった。
「三成、お前……!」

 「…俺はあの人のように笑えないし、あのような包容力も無い。柔い体などしている筈も無い男だ。」







 「清正、もういい。
お前は早く嫁を取れ。」



 清正は思わず匙を取り落とした。



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