離れられない、離れたくない(清三)


 大坂城内の厨にて、ねねは皆のために腕を振るって夕餉の支度をしていた。本来ならばねねほどの立場の者が台所に立つなど有り得ないが、本人たっての希望により豊臣家では彼女が食事を作ることがままあった。
 ふつふつと煮立つ鍋の前で、鼻歌混じりに灰汁を掬い取っているねね。おいしそうな煮物の香りが、厨中に広がっている。
 「おねね様、頼まれていた食材の調達、無事に終了しました。」
 そこへ清正が、一抱えの荷物を持って現れた。ねねに頼まれてお使いに行っていたらしい。
「お疲れ様!わぁ〜、いいものばっかりこんなにたくさん!ありがとう清正!」
 新鮮な野菜や魚介類の数々に、ねねは瞳を輝かせた。そして彼女の向日葵のような笑顔に、清正は頬を朱色に染めた。
「あ…、いや、おねね様の頼みですから。俺で役に立てるなら光栄です。またいつでも頼って下さい。その方が…俺も……。」
「うん、助かるよ。清正は良い子だねっ!」
 ねねは背伸びをして清正の頭を撫でた。これは彼女の昔からの習慣であり、清正達が立派に元服した後も続いていた。ねねに密かに初恋を捧げ、今も母として慕っている清正は、その行為に顔を耳まで真っ赤にしていた。



 「………。」
 偶然にもその現場を見ていた三成は、足早に厨の前から立ち去ったのだった。





 その翌日のことである。朝から三成の姿を見ないと、清正は彼を探していた。何か用事があった訳ではないが、恋人の顔が見たくて。
「左近、三成を知らないか?」
 清正は廊下で鉢合わせた三成の忠臣に、奴は何処かと尋ねた。
「殿ならまだお休みになってますよ。体調が優れないみたいでねぇ。昨夜も遅くまで執務をなさっていたようで……。」
 左近は根を詰め過ぎる主人を思い苦笑いを浮かべながら言った。
「それで、大丈夫なのかよ?」
「ちょっと過労と寝不足が祟ったみたいですね。軽く大丈夫とは言えませんが、休んでいれば回復しますよ。そんなに心配はいりませんって、清正さん。」
「な…っ!!」
 顔色を変えた清正をよそに、左近は落ち着いたものでからかうような口振りでさえあった。



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