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惚レタラ負ケヨ(清三)
「お前も、黙ってりゃ少しは見れた顔してんのにな!!」
「うるさい!ならば貴様とは金輪際口を利かん、この馬鹿が!!」
……まただ。また三成と喧嘩をしてしまった。俺達が所謂恋仲になった今も、度々勃発する小競り合い。今回も原因と云う原因を思い出せないのだから、恐らくきっかけは下らないことなのだろう。あいつの性格を考えて、向こうから折れてくることはまず無い。俺が譲歩してやれば事態は収拾するのだろうが、素直にそうしてやるのも何だか癪に触った。
三成と喧嘩をした翌日。俺はいつも通りに早朝の鍛練と朝餉を終えて、昨日の昼間に回って来た数通の書簡の確認作業をしようと資料になるような書物たくさんが置いてある部屋へと向かった。するとそこには先客がいたのだった。
「三成……。」
奴は腕に何冊か書物を抱え、まだ何か探し物をしているようだった。三成は部屋に入って来た俺に一瞥をくれ、また何か必要な資料を探す作業に戻った。
俺を見たときのあいつの、全く興味の無さそうな目。本当に、取るに足らないものを見たときのような瞳、そんなものを俺は三成から初めて向けられた。一瞬俺が呆けているうちに、横をすり抜けて三成はこの埃臭い部屋から出て行った。
それから数日、三成は先日の啖呵の通りに、全く俺とは口を利いていない。うまく躱されている…と言うよりは、割と露骨に俺を避ける。しかし本人は顔色一つ変えずにいるもんだから、おねね様に叱られたり、他人に不審に思われたりはしない。目も合わせてはくれないのだが、それは幸いだと思った。あの、無関心そのものな瞳。それを再び向けられると思うと、少し恐ろしい。
「俺のことは……もう何でも無いっつーのかよ…。」
秋風が吹き抜ける深夜の庭先に、清正の声だけが小さく響いた。
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