恋慕(清三・清正ED後ベース)


 大坂夏の陣は豊臣方の勝利に終わり、天下は豊臣家のものと揺るがなくなった。秀頼様の下戦後処理もなんとか進んでおり、俺が主となって補修を行っている大坂城も、かつての姿を取り戻してきた。


 平和になった日常の中で、どうしても思い出すのは―



「…清正さん、清正さんってば。」
「あ…、ああ、左近か。」
「左近か、じゃありませんよ。ぼーっとしちゃって、考え事なら自室でお願いしますね。」
「……すまん。」
 そうだ、今は戦火で被害を受けた民衆を、どのように支援すべきかと話し合っていた最中だった。
「ひょっとして殿のことを考えていたんですか?殿、こーゆーの得意でしたからねぇ。あの人なら何て言うんでしょうか…。」
 左近がぽんぽんと、扇を叩く真似をした。もういないあいつの―

 そう思ったら、俺は無意識に左近の胸倉を掴んでいた。
「おい、清正やめろって!!」
 慌てて間に入った正則に止められ、我に返ると僅かに震える手を離した。
「…悪い、俺は……。」
「いいですよ、清正さん。じゃあ今日はこれでお開きってことで。」




 俺達は石垣原であいつに援軍を受け、辛くもあの戦に勝利することが出来た。実質、左近にも救ってもらったことになるのだが。
 もしあのとき、左近があいつの側を離れなかったら、今でもあいつは生きていたかも知れない。そんな愚かな考えが頭にずっとちらついて消えやしなくて、今だにあいつを「殿」と呼ぶあの男を憎く思ってしまうのだ。先に手を離したのは俺の方なのに、最後まであいつの側にいたあの男が、仕様もない程憎かった。



 庭先で咲いている白い花も、襖の小さな傷も、すっかり中の綿がつぶれたこの座布団も。ここにはこんなにもお前が残っている。こんなにもお前の匂いがする。こんなにもお前が染み付いたこの家なのに、お前だけがいないなんて。

「三成……。」

 この家も、俺の心もお前で溢れているよ。しかし全ては今更なのだ。今更お前を探してみても。想っても、想っても。
 ああ、もう何も考えたくない。






 ―この感情の名前に気付いてしまったら、これから生きていけないから―



    ―終―

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