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俺しかいない(清三)
清正はモテる。
城内の奉公人、町娘達等の婦女子は勿論、正則なんかを筆頭に男達も奴を慕う。今日も誘われて遠乗りか。結構なことだな。
「三成。」
遠乗りから帰って来たらしい清正が、汚れた着物もそのままに廊下で声をかけて来た。砂埃塗れのままなど、綺麗好きなこいつにしては珍しいことだった。床がざらざらになり鬱陶しいので無視をしてやる。
「おい、聞こえてんだろ?」
肩を掴む奴の手を素早く払い落とす。
「埃臭い。触るな馬鹿。」
眉間に皺を寄せてわざと嫌そうに言ってやると、清正は悪い、と半歩ほど離れた。
「後で、部屋に行く。」
清正がその台詞を言い切らぬうちに俺は再び廊下を歩き出した。
夜も更け、月が煌々と輝く頃、部屋の襖が遠慮がちに開けられた。その向こうから現れたのは清正だった。
「お前は入室の許可も取らんのか。」
「行くって言ってあっただろ?」
「何の用だ。俺はもう休みたいのだが。」
「……お前、なんか今日はいつにも増して冷たいな…。」
言いながら清正は懐から何を出した。
「山百合?」
差し出されたそれは、白い花弁の百合だった。
「これ、お前に。今日見付けたんだ。」
「…萎れているではないか。」
「帰って来てすぐ渡すつもりだったんだが、誰かさんが汚ねぇって嫌がるもんでな。」
「……ふん、花など女にでも渡せば良かろう。」
それでも受け取った俺に、清正は破顔する。
「俺は、お前にやりたかったんだ。」
清正の大きくて温かい手が、俺の頬を撫でる。なんて甘ったるい目で俺を見るんだろうか。
「俺にだけだろうな?こんなことをするのは。」
なんだかおかしくなって来て、溶けかけた砂糖菓子のような瞳に問う。
「当たり前だろ。」
その鈍色の瞳に映る俺は、大層満足そうな顔をしている。
「そうか。
これは花の礼だ。」
清正の頬に、軽く唇で触れてやった。
「……明日も採って来る。」
「馬鹿。」
清正はモテる。
城内の奉公人、町娘達等の婦女子は勿論、正則なんかを筆頭に男達も奴を慕う。
しかし、どうやらこいつが夢中になっている相手は俺一人らしい。
…それが気分がいいなんて、口が裂けても言いはしないが。
―終―
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