曖昧なひとたち(清三・現パロ)


 思えば、いつからだろうか。こんなよく分からない関係が始まったのは。





 今日も俺は、お決まりのカフェのお決まりの席で清正を待つ。外は暑かったので珍しくアイスカフェラテを注文した。だが、冷房が直撃するこの壁際の席では良くない選択だったかも知れない。少し寒くなってきた。


「三成。」


 入口方面から聞き慣れた声。俺に向かって軽く手を上げて挨拶をした後、清正は注文カウンターに向かう。ちょっと待ってくれ。
「清正、何か温かい飲み物を注文してくれ。」
「このクソ暑いのにか?」
「俺のこれをやるから。」
「……ああ。」
 奴は瞬時に察したらしく、苦笑い。


 「ほら。」
 その言葉と共に差し出されたのはホットココア。俺は代わりに少々ぬるくなったアイスカフェラテを渡す。


 俺達は別に、これから何をする訳でもない。どこにも出掛けないし、何か特別な話だってしない。ただこうして向かい合って座り、その日の気分でコーヒーや紅茶を飲んだり、サンドイッチや稀にケーキなんかも食べたり。交わされる会話も他愛ないこと。昨日は誰々に会ったとか、何処何処の何々がうまいとか。その話はこの間聞いたぞ清正、とか。
 俺達の間に甘い言葉も愛の囁きも、ありはしない。



 会話と食べ物と飲み物がなくなったら帰る。そのときは二人、手を繋いで。



 この茹だるような暑さの中、俺達はやはり手を繋いで家路へ着く。
 清正は必ず、俺を家まで送ってくれる。汗ばんだこいつの大きな手に、なんとなく、少しだけ、どきどき……したような気がした。




 他人から見たら少しおかしいのかも知れない俺達の曖昧な関係は、ぬるま湯に浸かっているようで心地良い。別に俺達はドラマの登場人物ではないのだから、二人で歩く道のりに上り坂も下り坂もいらないと思うのだ。幸せ、だから、いい。




 「あいまい」の字の中には、確かに「愛」がある訳だし。



   ―おしまい―


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